【FDAガイダンス案】医薬品、生物学的製剤、デバイスの分散化臨床試験

医薬関係
この記事は約28分で読めます。

 2023年5月2日にFDAは、分散化臨床試験(Decentralized Clinical Trials:DCTs)に関するドラフトガイダンス案を公表しました。

 Decentralized Clinical Trials for Drugs, Biologica (Draft Guidance)

 2023年8月1日までこのガイダンス案に対するパブコメを受け付け、2023年12月下旬までに最終化する予定のようです。

 臨床開発の領域で注目されているDCTですが、2022年12月にEMAがDCTに関する推奨事項を公表しておりました(以下で書いておりますので、併せてご参照ください)。

 今回FDAが発表したドラフトガイダンスは、EMAの推奨事項と内容的に重なる部分もありますが、全体的にはFDAのドラフトガイダンスの方が網羅的に記載されています(両者では少し文書作成の視点が異なるようにも感じました)。

 ですので、当然ながらDCTの実施に際しては両方を読んで考慮していくことが求められると思います。

 FDAはDCTの導入に前向きな印象で、FDA長官のRobert M. Califf氏はDCTの普及の背景や利点について以下のようなコメントを出しています。

FDAは、分散化臨床試験の利点を長い間検討してきました。デジタルヘルス技術の進歩やCOVID-19のパンデミックにより、多くの臨床試験参加者が対面での治療を制限されたり、受けられなかったりしたことから、こうした取り組みの普及が加速しています

エビデンス生成システムの改善を目指す中で、分散化臨床試験は、試験参加者の利便性を高め、介護者の負担を軽減し、より多様な集団へのアクセスを拡大し、試験効率を改善し、希少疾患や移動が困難な集団に影響を与える疾患に関する研究を促進する可能性があります。

 今回のガイダンス案では主に以下のようなトピックスに関する推奨事項を提示しています。

  • DCTの設計上の考慮事項
  • DCTにおけるリモートからの臨床試験の受診および臨床試験に関連する活動の実施
  • DCTにおけるリモートからのデータ取得のためのデジタルヘルス技術の使用
  • DCTにおける治験依頼者と治験責任医師の役割と責任
  • DCTにおけるインフォームド・コンセント(IC)の取得とICプロセスに関する施設審査委員会の監督
  • DCTで使用する治験用製品の適切性の判断
  • DCTにおける治験用製品の包装及び配送
  • DCTにおける試験参加者の安全性監視

 FDAは、分散化要素を持つ臨床試験が公衆衛生上のニーズに対応する上で重要な役割を果たすことを期待しており、治験依頼者と協力して分散化臨床試験がどのように適合するかを議論すること求めているそうなので、DCT実施前には必ずFDAに相談すべきでしょう。

 余談ですが、個人的には、DCTはなんとなくソフトウェアベンダーからの情報発信が多い印象ですが、実際の運用を考えると、リモート先での現実的な医療体制の確保など、もっと生々しい運用の体制整備に苦労しそうな印象です。

 以下のガイダンス案の日本語訳では、ほとんどの場合において、sponsorを「治験依頼者」、investigatorを「治験責任医師」、visit(ビジット)を「受診」と訳しています。

 また対象が治験薬だけでなく機器も対象としているため、investigational productを「治験薬」ではなく「治験用製品」と訳しています。

 「臨床試験」「治験」「試験」が混在しています。意図的に訳を変えている部分もありますが、大半は意味がありませんので、あまり深く考えず同じ意味として読んでください。


I. はじめに

 本ガイダンス案は、医薬品、生物学的製剤及び医療機器に関する分散化臨床試験(DCT)の実施に関して、治験依頼者、治験責任医師及びその他の関係者に推奨するものである。本ガイダンスにおいて、DCTとは、試験関連活動の一部又は全部が従来の治験施設以外の場所で発生する臨床試験のことを指す。

 完全な分散化臨床試験では、すべての活動は従来の治験施設以外の場所で行われる。これらの試験関連活動は、試験参加者の自宅や、試験参加者にとって便利な地域の医療施設で行われることがある。ハイブリッド型DCTでは、一部の試験活動は、試験参加者が従来の臨床試験施設を直接訪問し、その他の活動は、参加者の自宅など、従来の臨床試験施設以外の場所で行われる。

 医療製品の臨床試験に関するFDAの規制要件は、DCTと従来の臨床試験施設に基づく臨床試験とで同じである。食品医薬品改革法(FDORA)第3606条(a)は、FDAに対し、2023年12月29日までに「医薬品および機器の開発を支援するための分散化臨床試験の使用を明確にし、促進するための推奨事項を含むガイダンス案を発行または改訂する」ことを指示している。本ガイダンスは、DCTに適用される場合の医療製品の調査に関するFDAの要件に関連する推奨事項を提供するもので、FDORAの3606条(a)(1)に規定される要件を満たす。FDORAの3606条(b)に記載された内容は、本ガイダンスが「Digital Health Technologies for Remote Data Acquisition in Clinical Investigations(2021年12月)」という産業界、治験責任医師、その他の関係者向けのガイダンス案を参照していることでさらに対応している。

 一般的に、FDA のガイダンス文書は、法的強制力のある責任を確立するものではない。

 その代わり、ガイダンスにはトピックに関するFDAの現在の考え方が示されており、特定の規制または法的要件が引用されていない限り、推奨事項としてのみ見なされるべきである。FDAのガイダンスにおけるshouldという言葉の使用は、何かが提案または推奨されているが、必須ではないことを意味している。

II. 背景

 多くの臨床試験は、参加者が関与するすべての試験関連活動が従来の臨床試験施設で実施されるわけではなく、分散化された要素をすでに含んでいる。例えば、臨床検査は、従来の臨床試験施設から離れた場所にある臨床検査施設によって実施されることが多い。DCTは、より多様な患者集団へのアクセスを拡大し、臨床試験の質を向上させる可能性を持っている。

 異なる場所にいる治験参加者と対話するための電子通信と情報技術(すなわち、テレヘルス)を用いた臨床ケアの進歩により、治験施設への直接の訪問を減らすことができる。例えば、デジタルヘルス技術(DHT)は、治験参加者からリモートで取得できる治験関連データの種類を拡大した。リモートによる参加を可能にすることで、DCTは、治験参加者の利便性を高め、介護者の負担を軽減し、希少疾患や、移動が困難で従来の治験施設へのアクセスが困難な集団に影響を与える疾患に関する研究を促進することができる。これは、治験参加者の参加、リクルート、登録、意義ある多様な臨床集団の維持の改善に役立つと考えられる。

 完全な分散化試験は、投与や使用が簡単で、安全性プロファイルが十分に特徴付けられ(セクションIII.F参照)、複雑な医学的評価を必要としない治験用製品(IP)に適しているかもしれない。また、ハイブリッド分散化臨床試験は、IPの投与や複雑な医学的評価を臨床試験施設で実施する必要があり、一部のフォローアップ評価をオンラインでの患者報告アウトカム測定、テレヘルス、在宅訪問、または地域の医療提供者(HCP)によって、適宜遠隔で実施できる場合に適しているかもしれない(セクションIII.Bを参照)。

 DCTに関連する課題として、従来の臨床試験施設ではない複数の場所にいる個人および施設との試験活動の調整が挙げられるかもしれない。DCTは一般に、治験の分散化を促進するための具体的な計画を含む。これらの計画には、必要に応じて、地域の医療施設、地域のHCP、地域の臨床検査施設の利用、治験参加者の自宅への訪問、治験参加者の所在地でのIPの直接交付などを含める必要がある。DCTのフィージビリティ、デザイン、実施、または分析に関連する特定の問題は、FDAの関連する審査部門と早期に協議すべきである。適切なトレーニング、監査、および事前のリスク評価と管理は、DCTを成功させるための鍵となるであろう。

III. DCTs導入のための推奨事項

 以下のセクションでは、DCTを実装するための具体的なトピックに関するガイダンスを提供する。

A. DCTの設計

 DCTでは、一部またはすべての試験関連活動が従来の臨床試験施設以外の場所(例:参加者の自宅や地域の医療施設)で行われる。DCTは、治験責任医師の監督の下、治験関係者及び地域のHCPが勤務し、治験関連サービス(例:画像診断及び検査サービス)が提供される場所のネットワークを含む場合がある。

 査察のために、治験責任医師が管理する被験者のすべての臨床試験関連記録にアクセスでき、治験関係者にインタビューできる物理的な場所があるべきである。この場所は Form FDA 157211 に記載するか、Investigational Device Exemption(IDE)申請の場合は IDE 申請書に記載する必要がある。

 DCT で得られるデータのばらつきや精度は、従来の臨床試験施設でのデータと異なる場合がある。このことは、そのようなデータを用いた試験における優越性の証明の妥当性には影響しないが(効果量を減少させる可能性はあるが)、非劣性の証明の妥当性には影響し得る。リモートによる評価は、特に試験参加者が自分で生理学的検査(例えば、家庭用スパイロメトリー)を行う責任がある場合、オンサイトでの評価と異なる場合がある。また、日常診療の一環として現地のHCPが行う評価(例えば、症状の評価)は、専属の試験担当者が行う評価よりも変動が大きく、正確性に欠けることがある。非劣性試験において、例えばアクティブコントロール薬の効果量が従来の臨床試験施設でのみ決定されている場合、DCTにおいてアクティブコントロール薬に同じ効果量が見られると仮定することは合理的でない場合がある。このことは、非劣性マージンを計算する上で問題となる可能性がある。DCTにおける非劣性試験を計画する際には、FDAの審査部門に相談すべきである。

B. リモートでの臨床試験の受診と臨床試験に関連する活動

 リモートでの治験の受診や臨床試験に関連する活動(臨床試験関連活動)は、治験をより便利に、治験参加者にとってより身近なものにするための重要な戦略である。リモートからの臨床試験の受診や臨床試験関連活動を計画する際には、以下の点を考慮する必要がある:

  • 一般に、治験責任医師は、対面での対話が必要ない場合、治験参加者との対面受診の代わりにテレヘルス受診を考慮することができる。プロトコールは、治験参加者とのテレヘルス受診がいつ適切で、いつ対面での受診が必要かを明記するべきである。
  • 対面での受診や臨床試験関連活動は、参加者の自宅や希望する場所に派遣される治験担当者によって実施することができる。
  • プロトコールによっては、治験参加者の自宅の近くにいる治験担当者ではないHCPによって、対面での受診や臨床試験関連活動が行われることもある。これらの地域のHCP(医師や看護師など)は、治験依頼者と治験責任医師が特定の臨床試験関連活動を行うために利用することができる(例えば、有償で)。彼らが提供する臨床試験関連業務は、彼らが臨床で行う資格を有する業務(例:身体検査の実施、X線写真の読影、バイタルサインの測定)と異なるものであってはならない。これらの業務は、プロトコールやIPに関する詳細な知識を必要とすべきではない。
  • 研究に特有またはプロトコールやIPの詳細な知識を必要とする臨床試験関連業務 は、適切な訓練を受けた有資格の治験担当者が実施すべきである。申請時には、治験担当者と治験参加者の双方が、テレヘルスでの受診の実施方法または参加方法について訓練を受けるべきである。
  • – 各リモート試験の受診の際には、治験責任医師は、試験参加者の身元を確認すべきである。FDAは、特定の本人確認方法を推奨していない。治験依頼者と治験責任医師は、既存のデジタルアイデンティティ・ガイドラインを参考にすることを考慮してもよい。
  • テレヘルスによる受診の場合は、受診日時を含め、症例報告書やその他の文書が記入される必要がある。
  • プロトコールは、リモートで確認された有害事象がどのように評価され管理されるかを明記する必要がある。プロトコールは、緊急または対面での対応が必要な有害事象に対して、どのように処置を行うかを記述する必要がある。テレヘルスで実施されるリモート治験の受診が、関連する米国の州または地域およびその他の国(該当する場合)におけるテレヘルスを規定する法令に準拠していることを確認することは、治験依頼者と責任医師の責務である。

C. デジタルヘルス技術

 DHTを使用すると、試験参加者がどこにいても、遠隔地からデータを送信できる可能性がある。

 治験依頼者は、DCTにおけるDHTの使用に関して、以下の情報を考慮する必要がある:

  • 産業界、治験責任医師、その他の関係者向けのガイダンス案「Digital Health Technologies for Remote Data Acquisition in Clinical Investigations」は、医薬品、生物学的製品、デバイスの臨床試験において、DHTを使用して参加者からデータを遠隔取得し、臨床イベントと関心のある特性を測定するための、依頼者、治験責任医師、その他の関係者への推奨事項を示している。このガイダンスは、臨床試験用のDHTの選択、検証、妥当性確認、ユーザビリティ・テスト、臨床試験のエンドポイントのデータ収集のためのDHTの使用、DHTの使用に関するトレーニング、臨床試験におけるDHTの使用に関するリスクのマネジメントについて述べている。臨床試験におけるDHTの使用に関するその他の問題については、他のFDAガイドラインで説明されている。
  • 治験依頼者は、DCTで使用されるDHTが、すべての試験参加者が使用可能であり、使用に適していることを確認する必要がある。臨床試験で参加者が自分のDHTを使用できるようにする場合、プロトコールで指定されたDHTを持っていない参加者が、それを理由にDCTから除外されないようにするため(例えば、DHTを購入できない社会経済的に低いグループ)、治験依頼者が提供するDHTを選択肢として用意する必要がある。

D. 役割と責任

 験依頼者と治験責任医師の役割と責任は、次の通りである。

1. 治験依頼者(スポンサー)

  • 治験依頼者の責務は、DCTと従来の臨床試験施設とで同じである。DCTには多くの受託業務が含まれる可能性があるため、治験依頼者は分散化した活動(例:訪問看護のための移動看護師の起用、地元のHCPの起用、参加者へのIPの直送)を適切に調整すべきである(セクションIII.BおよびIII.G参照)。
  • 治験依頼者は、治験参加者の多様性と包摂に努めるべきである。地域の医療機関(例:薬局、診療所)を通じたアウトリーチは、従来の臨床試験施設が限定的か、あるいは存在しない地域において、多様な参加者の募集を促進することができる。DHTの利用を含め、臨床試験関連活動を参加者の自宅で行うことで、移動の必要性を減らし、従来の臨床試験施設へのアクセスが困難な潜在的参加者の参加、リクルート、維持を向上させることができる可能性がある。参加者候補の自宅に近い地元のHCPを利用することで、多様な参加者(人種、民族、年齢、性別、地理的位置など)の参加、リクルート、維持が改善する可能性がある。さらに、地元のHCPの使用は、臨床試験への参加に対する文化的または言語的障壁を軽減する可能性がある。
  • DCTにおける複数のデータ収集源を考慮するため、治験依頼者はデータマネジメント計画書(DMP)に少なくとも以下の事項を含める必要がある:
    • データ生成者及び全てのソースから治験依頼者へのデータフロー(セクションⅢ.I参照)(例:データ生成から最終的な保管までのデータの流れを描いた図表)
    • 治験参加者、治験関係者、受託事業者(現地臨床検査施設、臨床試験関連活動を行う現地HCPなど)からのリモートでのデータ取得に用いる方法
    • データ収集、取り扱い、管理のためのベンダーを特定するリスト
  • 治験依頼者は、DCT の運用面をどのように実装するか、プロトコールに記載されなければならない。この記述は、以下をカバーする必要があるが、これに限定されるものではない:
    • 予定および予定外の治験における受診(該当する場合、リモートと対面)
    • 異なる場所で行われた活動についてのレポートの送信(例:医療画像、臨床検査、および試験参加者の自宅、職場、またはその他の地域の施設で行われた処置)
    • 該当する場合、試験参加者へのIPの配送、およびIPの説明責任
    • 安全性監視と有害事象の対応
  • 症例報告書が、いつ、どこで、誰によってデータが収集されたかを特定すべきである。
  • 治験依頼者は、DCT を実施する際、医療行為及び知的財産管理に関する現地の関連法、規制及びライセンシング要件に準拠しなければならない。これには、複数の米国の州、地域、及びその他の国の法令への対応が含まれる場合がある。
  • 治験依頼者は、治験の適切なモニタリングを確保しなければならない。他の試験と同様に、治験依頼者はDCTをモニタリングするために様々なアプローチを用いることができ、試験のモニタリング計画は治験依頼者のリスク評価に基づいて策定されなければならない。治験モニタリング計画は、(1)プロトコール遵守とデータの品質および完全性を評価するためにどのようにモニタリングを実装するかを記述し、(2)試験記録および原資料をレビューする頻度を特定し、(3)DCT手順に関連する固有の側面に注意すべきである。FDAは、リスクベースのモニタリングアプローチと集中モニタリングの使用を奨励し、システム的または重大なエラーを示す可能性のある欠損データ、一貫性のないデータ、データの異常値、潜在的なプロトコールの逸脱を特定し、積極的にフォローアップする。

2. 治験責任医師と治験に関連する活動の委譲

 治験責任医師は、DCTの実施、および試験関連業務の遂行を委譲された個人の監督(これらの委譲された業務や作業が治験計画、適用される規制、および関連法に従って実施されることの確保を含む)に責任を有する。DCTと従来の施設型臨床試験との主な違いは、治験の実施において治験責任医師が、テレヘルス、遠隔地で働く治験担当者、現地のHCP、DHTをどの程度利用するかである。治験を完全にリモートによる受診とするか、ハイブリッドな試験デザインとするか、どちらが適切かどうかは、エンドポイントを収集し安全性を監視するために求められる評価と手順の種類によって異なる。分散化試験の特徴から、一貫した実装を確実にするために、追加のトレーニング、調整、標準作業手順が必要となる場合がある。

  • プロトコールで許可されている場合、治験責任医師は、治験参加者との対面でのやりとりを必要とする治験関連処置(例:身体検査やその他の医療処置)を行うために、現地のHCPに治験関連活動を委譲することができる。これらの処置は、プロトコールで指定された参加者の所在地または他の地域の医療施設で行われることがある。
  • 治験責任医師が、プロトコールに記載された活動(病変部の写真撮影、装着型センサーの装着など)を参加者の所在地で行う治験担当者を監督する上で、ビデオ会議などの技術が有効である。
  • 治験責任医師は、DCT関連活動の適切な監督を確保するために、適切に管理できる範囲内で試験参加者を登録する必要がある。
  • 21 CFR 312.53 の対象となる医薬品試験と同様に、Form FDA 1572 はすべての治験責任医師が記入する必要がある。DCTに治験分担医師として個人を含めるかどうかは、その割り当てられた責任に基づいて決定されるべきである。
    • 治験担当者が治験データに直接かつ大きく貢献する場合は、Form FDA 1572 に治験分担医師として記載されるべきである。
    • 日常診療の一部であり(例:身体検査の実施、X線写真の読影、バイタルサインの測定)、プロトコール、IP、治験用製品の概要書の詳細な知識が必要ない治験関連業務のために契約した現地 HCP は、治験分担医師として Form FDA 1572 に記載されるべきではない。しかし、現地の HCP はタスクログに含めるべきである(このセクションで後述する)。
  • デバイスの治験については、21 CFR part 812に基づく治験責任者の責任として、治験依頼者と治験責任者の間で署名された契約書が必要である(21 CFR 812.43(c)(4) 及び812.100を参照)。また、IDE申請の一部として、試験における全医師のリストが要求される(21 CFR 812.20 および 812.150(b)(4) を参照)。日常の臨床診療の一部であり、プロトコールやIPに関する詳細な知識が要求されない試験関連業務を提供するために契約した現地のHCPは、一般的に治験責任医師とはみなされず、IDEの治験責任医師リストには含まれないはずである。しかし、これらの現地HCPはタスクログに含めるべきである(このセクションで後述する)。
  • DCTにおいて、臨床試験に関連する活動を現地のHCPに委譲する際に考慮すべき重要な点は、異なる診療行為(例えば、バイタルサインの記録、身体検査、有害事象の評価など)において、そのアプローチにばらつきが生じる可能性があることである。必要な手順の一貫性と完全性を評価するために、現地のHCPが入力した参加者データを治験責任医師が定期的に確認するなど、ばらつきを抑えるのに役立つ品質管理措置を講じる必要がある。品質管理措置の種類と範囲は、データの重要性と現地のHCPが行う手順の複雑さに合わせて調整する必要がある。
  • 適切な症例記録の作成と維持の一環として、治験責任医師は、治験に関連する活動を行う現地 HCP のタスクログを維持しなければならない。
    • タスクログには、(1)現地HCPの名前と所属、(2)役割と割り当てられたタスクの説明、(3)これらの現地HCPがログに追加された日付、(4)これらの活動が行われた場所、を含めるべきである。
    • タスクログは、最初に作成されたときに治験責任医師が日付と署名をし、新しい現地HCPが追加されたときに更新される必要がある。タスクログは査察の際、FDAが利用できるようにする必要がある。
    • 治験参加者に治験外のケアを提供している、治験に関与していない他の医療専門家は、Form FDA 1572、タスクログ、または医療機器スポンサーの現在の治験責任医師リストに記載されるべきではない。これらの専門家には、緊急または既往症のある治験参加者に日常的なケアを提供する救急室職員、病院職員、家庭医、看護師が含まれる。
  • プロトコールによっては、プロトコールで必要とされる活動(例えば、穿刺、X線検査)を行うための指定された臨床検査施設を含む場合がある。その他のプロトコールでは、これらの活動を行うために、被験者の近くにある様々な臨床検査施設を使用することを許可する場合がある。一般に、特にアウトカムの評価に使用されるような重要なデータのばらつきを最小化し、専門的な調査や検査を実施するためには、指定された臨床検査施設の利用が望ましいと考えられる。適切な場合、治験参加者の検体(例えば、血液、喀痰)は、リモートの治験担当者、現地の HCP、又は臨床検査施設によって採取され、処理のために指定施設に送付することができる。標準化されている日常的な臨床検査であれば、現地の臨床検査施設で十分である場合がある。
  • すべての臨床検査施設は、Form FDA 1572 に記載されるか、IDEに基づく機器研究のための臨床試験計画に記載されるべきである。
  • 臨床検査施設に勤務する技術者及びその他の要員は、タスクログ又は Form FDA 1572 に記載されるべきではない。しかし、特定の機器試験(例えば、体外診断用機器)については、タスクログまたはIDE申請において、機器試験が行われる検査施設の責任者を特定する必要がある場合がある。
  • 他の試験と同様に、健康上の緊急事態(例えば、低血糖や心拍異常)を起こした試験参加者は、適切に地元の医療施設(緊急治療室など)で医師の診察を受けるべきである。治験参加者の許可を得て、治験責任医師はこれらの地域の医療機関から報告を受けるよう努めるべきである。また、治験に関連する活動(例:併用薬の変更)が行われた場合には、治験責任医師は日常の健康管理の主要な提供者からも報告を受けるよう努めるべきである。

E. インフォームド・コンセントと施設審査委員会の監督

 インフォームド・コンセントをリモートで取得することが、DCTの一部として考慮される場合がある。このプロセスが十分かつ適切であることを確認するために、施設審査委員会(IRB)の監督が求められる。

  • 治験責任医師は、インフォームド・コンセントに関して適用されるすべての規制要件が満たされていれば、遠隔地にいる治験参加者から電子的なインフォームド・コンセントを取得することができる。遠隔地で電子的なインフォームド・コンセントを取得するプロセスには、必要に応じて遠隔地への訪問が含まれる場合がある。
  • DCTの場合、インフォームド・コンセントのプロセスには、研究および研究対象者の権利に関する適切な質問に対する回答先、ならびに研究対象者に研究に関連した傷害が発生した場合の連絡先について、参加者に通知することが含まれなければならない。
  • インフォームド・コンセントには、DCT中に得られた試験参加者の個人的な健康情報に誰がアクセスできるかを記述する必要がある。
  • FDAは、プロトコール、同意説明文書、およびその他の関連する試験関連情報の効率的なレビューを促進するために、DCTにおいて中央IRBを使用することを推奨する。

F. DCTにおける治験用製品

1. 医薬品・生物学的製剤

 治験責任医師は、治験責任医師の直接の監督下又は治験責任医師に責任を負う治験分担医師の監督下にある参加者にのみに、IPを投与しなければならない。臨床試験施設外のDCTでの投与が適切かどうかを判断する際には、IPの性質を考慮する必要がある。複雑な投与手順を伴うIP、特に投与直後の安全性プロファイルが高リスクのIP、安全性プロファイルが十分に確立されていない開発初期段階のIPは、治験実施施設での治験責任医師による対面での監督が必要となる場合がある。

 安全性プロファイルが明確で、投与直後の特別なモニタリングを必要としないIPについては、地域のHCPまたはリモートで働く試験担当者によって、地域の医療施設または参加者の自宅でIPを投与することが適切である場合がある。ハイブリッドDCTは、監視は必要だが投与頻度が少ない(例:月1回)薬剤の場合、投与は治験実施施設で行い、フォローアップはリモートで行うことができるように設計することができる。

 治験依頼者は、IPの安全性プロファイル(例:過敏症や乱用の可能性がある薬物)および試験の種類(例:用量漸増試験)に応じて、IPおよび参加者の基礎疾患に関連するリスクに基づいて必要となりうるケアの緊急性および複雑性を推定すべきである。治験責任医師は、参加者が適切なレベルの現地の医療を受けられるようにするための措置を講じるべきである。

 参加者の自宅への直接配送に最も適した医薬品には、保存期間が長いもの、安定性のプロファイルが良好なもの等がある。特殊な取り扱い、輸送、および保管条件を必要とする医薬品は、治験実施施設以外の場所への直接配送には適さない場合がある。

2. 医療機器

 DCTにおける治験機器の適切な使用または投与を判断する場合、治験依頼者は、医療機器の種類、使用目的、使用説明書、重大なリスクのある機器か重大なリスクのない機器かを考慮すべきである。

 治験参加者に重大なリスクをもたらさない家庭での使用に適した医療機器(すなわち、市販の機器)は、治験責任医師が直接監督することなく、治験参加者が使用することが適切であると考えられる。自己使用を目的としない医療機器(すなわち、病院または外来で使用される機器)、または治験参加者に重大なリスクをもたらす医療機器の使用は、治験責任医師の監視のもと、資格を有する治験関係者によって使用または管理されるべきである。医療機器の使用後または治験参加者への機器の外科的移植後に必要な特定のフォローアップ処置は、適切な資格と訓練を受けた地域のHCPまたは治験担当者が、テレヘルスでの受診、治験参加者の自宅、または地域の医療施設において行うことができる。テレヘルスでの受診は、その環境での評価が治験参加者に重大なリスクをもたらさず、そのような環境において有害事象を適正に評価し、文書化できる(している)場合に適切である可能性がある。

G. 治験用製品の包装と配送

 一般に、DCTは治験参加者の所在地に治験用製品を直接配送することを認めている。治験依頼者は、DCTにおけるIPの包装、配送および保管に関して、以下の推奨事項を考慮する必要がある:

  • プロトコールには、適切な包装材料及び方法(例:温度管理)を含め、治験参加者への配送中にIPの物理的な完全性および安定性がどのように維持されるかについて記載されている必要がある。配送用容器には、IPの取り扱いおよび保管に関する分かりやすい説明書と、未使用のIPを返却するための説明書が含まれていなければならない。
  • 関連する場合、DCT担当者は、IPの取扱い、包装、配送および追跡のための手順や 適切な文書についてトレーニングを受けるべきである。
  • IPを治験参加者に直接配送するために、中央配送サービスを利用することも可能である。治験依頼者または委譲された治験担当者は、流通業者によるIPの出荷を管理し、プロトコールに記載された手順に従って、試験参加者(または参加者の法的に認められた代理人)による受領と使用をモニタリングし、未使用品の返却または廃棄を依頼者の指示によりモニタリングする必要がある。
  • プロトコールには、治験参加者(又は参加者の法的に認められた代理人)がIPを受領したことを治験責任医師がどのように追跡し記録するかを記載すべきである。
  • プロトコールは、治験責任医師又は参加者(又は参加者の法的に認められた代理人)が未使用のIPを返却又は廃棄するために使用すべき手順および文書化の方法を記述するべきである。
  • 治験依頼者と治験責任医師は、それぞれの法域において、IPの発送について適用される連邦、州、及び国際的な法律や規制を遵守しなければならない。

H. 安全性監視計画

 治験依頼者は、治験の適切なモニタリングを確保し、INDまたはIDE申請に含まれる一般的な治験計画およびプロトコールに従って治験が実施されることを確認することが求められる。治験依頼者は、DCTにおける試験参加者の安全性と福祉を確保するために、安全性監視計画を実装する必要がある。

  • 安全性監視計画は、分散化臨床試験の性質を考慮し、有害事象が適切に把握され、 適切に対処されることを保証するものでなければならない。モニタリング計画は、安全性データを収集するために、試験担当者または現地のHCPとのテレヘルスの受診または対面での受診(例:身体検査)を、いつ、どのように予定するかについて、あらかじめ規定すべきである(第III.B項参照)。
  • 他の臨床試験施設と同様に、安全性監視計画には、参加者が有害事象にどのように対応し報告することが予想されるか、必要な場合には現地で医療支援を受ける場所やフォローアップケアを受ける場所を含めて記述されなければならない。
  • 治験参加者は、有害事象を報告し、適切な質問に回答してもらうために、治験担当者に連絡できるようにしなければならない。
  • 試験参加者は、適切な場合には、テレヘルスまたは対面による予定外の受診を手配することができるものとすべきである(セクションIII.Bを参照)。
  • 安全性監視計画では、DHT(DCTのデータ収集に使用される場合)によって収集される情報の種類、その情報の使用方法とモニタリング方法、異常所見や 電子的な警告に対応して試験モニタリング参加者や担当者が取るべき行動を説明する必要がある。
  • IPの遠隔での投与または使用により重大な安全リスクが生じた場合、治験依頼者は遠隔での投与または使用を中止し、FDA、IRB、および試験に参加したすべての治験責任医師に通知し、試験を継続するかどうかを決定しなければならない。
  • プロトコールで許可されている場合、臨床検査及び画像診断を含む日常的な安全性監視は、試験参加者に近い地域の臨床検査施設を使用して実施することができる(セクションIII.D.2参照)。治験責任医師は、これらのサービスに関する報告を速やかに受け取り、タイムリーに確認することを保証する。

I. DCTを実施する際に使用するソフトウェア

治験依頼者は、DCTで使用するソフトウェアについて、以下の点を考慮する必要がある:

  • DCTの実施を支援するソフトウェアは、様々なプラットフォーム(タブレット、携帯電話、パーソナルコンピュータなど)を通じて実行しうる。ソフトウェアは、DCTの運営を管理するために、以下のような複数の機能を果たすために使用されることがある:
    • 電子的なインフォームド・コンセントの管理(例:承認されたバージョンのインフォームド・コンセントの管理、IRBの承認の文書化、署名済みフォームのアーカイブ化)
    • リモートの治験担当者、現地のHCP、現地の臨床検査施設からの報告書の取得と保管
    • 電子化された症例報告書(eCRF)の管理
    • 治験の受診スケジュール調整やDCTに関連する活動
    • 治験参加者に直接配送されるIPの追跡
    • DHTに記録された情報の同期
    • DCT関係者と治験参加者間のコミュニケーションツールとしての役割
  • DCTの実施を支援するソフトウェアを使用するすべての関係者(治験担当者、現地HCP、治験参加者など)に対して、トレーニングが実施されること。
  • 現地HCPが臨床試験の記録として含める治験関連データを提出する方法には、いくつかの方法があるが、以下に限定されない:
    • 現地のHCPがeCRFにアクセスできる場合、臨床試験関連データが直接eCRFに入力されることがある。
    • あるいは、現地HCPは、治験責任医師への安全なデータ転送の方法を用いて、帳票や文書をアップロードすることができる。治験責任医師または他の治験担当者は、これらの治験関連データをeCRFに入力する責任を負う。
  • リモートの治験担当者または現地のHCPが直接eCRFに治験データを送信する場合は、治験依頼者が認めたデータ生成者のリストに含まれなければならない。
  • FD&C法およびFDAの規制によって要求される治験記録の作成および処理に使用されるソフトウェアプログラムは、21 CFR part 11の対象となる。これらのプログラムは、データの信頼性、セキュリティ、プライバシー、および機密性を確保しなければならない。
  • FDAは、テレヘルスを含むリアルタイムのビデオ対話を、治験担当者と治験参加者の間のライブの情報交換とみなしている。これらのライブのやりとりは電子記録とはみなされず、したがって21 CFR Part 11の対象にはならないが、テレヘルスを管理する地域の法令が適用される場合がある。これらのリアルタイムな受診のプライバシーとセキュリティは確保されるべきであり、その受診は文書化されなければならない。この文書が電子形式で取得される場合、当該文書は21 CFR part 11の対象となる。

用語集

本ガイダンスでは、以下の用語を定義している:

臨床検査施設(clinical laboratory facilities):血液検査を行う診断施設、画像診断センター、心臓検査施設など、臨床試験に協力・支援する臨床検査施設または試験施設。適切な場合、これらの臨床検査施設は、臨床試験参加者の自宅の近くに設置することができる。

データマネジメント計画(data management plan:DMP):治験依頼者が研究の過程で取得または生成すると想定しているデータや、治験依頼者が当該データをどのように管理、記述、分析、保存するつもりなのか、そして、研究データの保存や共有のために研究終了時にどのような仕組みを用いるかを記述した文書。

分散化臨床試験(decentralized clinical trial:DCT): 臨床試験に関連する活動の一部または全てが、従来の臨床試験の実施施設以外の場所で行われる臨床試験。

デジタルヘルス技術(digital health technology:DHT): ヘルスケアおよび関連用途のために、計算処理プラットフォーム、接続装置、ソフトウェア、センサーなどを使用したシステム。これらの技術は、一般的な健康増進のための申請から医療機器としての申請まで、幅広い用途に及ぶ。医療製品として、医療製品の中で、または他の医療製品(機器、医薬品、生物製剤)の補助機器として使用することを目的とした技術も含む。また、医療製品の開発または研究のために使用されることもある。

治験用製品(investigational product:IP): 臨床試験で研究されているヒトの医薬品、生物学的製剤、または機器。

テレヘルス(telehealth): 遠距離の臨床医療を支援・促進するための電子情報通信技術の利用。


 以上、FDAのDCTに関するドラフトガイダンス案でした。

タイトルとURLをコピーしました