【EMA】申請時における臨床試験データの当局提出に関するパイロット

規制
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 FDAやPMDAは、承認申請時にパッケージに含まれる臨床試験データをCDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)のSDTM(Study Data Tabulation Model)とADaM(Analysis Data Model)の形式で提出することを求めていましたが、EMAは基本的にCTD(Common Technical Document)のみで、臨床試験データの提出を求めてきませんでした。

 しかしながら2022年10月24日に、EMAも研究データの提出を求める方向に舵を切り、まずはパイロット的にトライアルをすることを公表しました。

Information about the raw data proof-of-concept pilot for industry

 これまでEMAは臨床試験の透明性の観点から、臨床試験データを(生データではない)非識別化したデータの提出を求めるpolicy 0070(の正確にはStep2)という文書を公表したものの、個人データ保護の観点から延期が繰り返され、未だに実現していません。

 今回は、透明性の観点からではなく、あくまで承認審査を目的に、非識別化されたデータではなく生データの提供を求めるものであり、目的や方法としてはFDAやPMDAと同じです。

 「EMAへの生データの提出」に関するデータ保護法視点からの法的根拠は、規則(EC) No 726/2004の第7条(c)に基づく要請を起点として、製薬企業が準拠しなければならないGDPRも、EMAが準拠しなければならないEUDPRもクリアできる整理になっています。

 それでは、以下でその文書の内容を見ていきましょう。


EMAに提出された販売承認申請および承認後申請のための生データへのアクセス

この文書は、欧州医薬品庁(EMA)に提出される初回販売承認申請(Initial marketing authorisation applications:iMAA)および承認後申請の一部である臨床試験の「生データ(Raw data)」の提出と解析に関するPoCについて概要を説明することを目的としている。

定義

「生データ」とは、「標準化された試験データ」とも呼ばれ、統計解析の元となる構造化された形式の臨床試験の個々の患者データを意味する。生データには、Study Data Tabulation Model(SDTM)及び Analysis Data Model(ADaM)形式のデータセットが含まれる。

背景、期待される効果、目的

EMAのヒト用医薬品委員会(CHMP)は、医薬品の品質、安全性および有効性に関する包括的な科学的評価に基づいて、販売承認申請や承認後の申請を審査している。現在、CHMPの臨床評価は、主に臨床試験報告書に報告された臨床サマリーや情報からのデータに基づいて行われている。このデータは、集計やその他の分析が直接できない形式で提供されている。

しかし、特定の規制手続きにおいては、規制当局が医薬品の評価中に生データにアクセスすることが有益な場合がある。生データへのアクセスは、提出されたエビデンスを理解する上で規制当局を助け、その結果、製品のベネフィット・リスクバランスに関する規制上の決定をおこなうための情報をもたらす。

EMAは、生データ解析が審査プロセスの一部を形成している他の国際的な規制当局の経験を含め、生データに関する過去の審査経験をレトロスペクティブにレビューした。このレビューに基づき、規制当局の評価をサポートするために臨床試験の生データを分析・可視化することで、特定の主要なステークホルダーにとって以下の潜在的な利益があることが確認できた。

  • EUの患者:革新的で安全かつ効果のある医薬品へのアクセスの迅速化、規制当局の意思決定に対する信頼性の向上、推奨されている適応症内のサブグループの製品ラベリング/ターゲティング、製品横断的な分析の促進
  • ネットワーク/EU保健機関:規制当局の意思決定に資する臨床試験結果の理解の向上;申請者にデータ解釈の質問をする必要性の減少;製品横断的な分析の促進;査察の最適化
  • 申請者/承認取得者(MAHs):複雑な質問の減少による作業負荷の軽減、タイムクロックの停止時間の短縮、認可の早期化

「PoC生データパイロット」は、定義されたスコープに沿って、上記の潜在的な利点のサブセットを調査する。例えば、製品横断的な分析はパイロット版のスコープには含まれいない。

目的

EMAと医薬品庁長官(HMA)の合同ビッグデータタスクフォースは、ビッグデータの可能性を実現するために、欧州医薬品規制ネットワーク(EMRN)に対して10の優先的な提言を行った。優先事項の1つは、患者レベルのデータを含む大規模なデータセットを受信、保存、管理、分析するためのコンピュータ能力を構築することでビッグデータを分析するEUネットワーク能力を構築することを推奨している(HMA-EMA合同ビッグデータタスクフォース Phase2レポート、およびヒト用医薬品委員会(CHMP)作業計画2022を参照)。合同ビッグデータタスクフォースは、医薬品の科学的評価を支援するための生データの可視化と分析の利点を調査し、関連する運用、リソース、技術的ニーズを特定するためにPoCを実施することを推奨している。

PoC パイロットからの学習は、例えば運用、リソース及び技術の必要性に関する実践的な学習を文書化し、例えば評価プロセス及び運用面への付加価値に関する関係者全員からのフィードバックを収集することによって評価される。これには、ラポータ審査チーム、規制当局、及び PoC パイロットフェーズに関係する規制手続きの申請者又はMAHからのフィードバックが含まれる。

法的根拠

電子構造化された形式の生データは、現在、EMAに提出される販売承認申請および承認後申請の一部として体系的に含まれていない。しかし、EMAの業務に関する規則では、審査の過程で生データを要求することが認められている。 

規則(EC) No 726/2004の第7条(c)に基づき、CHMPは、医薬品の品質、安全性および有効性を適切に評価するために、一定の期間内に申請に付随する詳細(生データ等)を追加するように申請者に要求することができるとされている。規則(EC) 1234/2008の第16条第3項は、タイプⅡの変更申請について同様の可能性を規定している。本規則の条項により、申請者/承認取得者は、このような要求に完全かつ迅速に答えなければならない。

PoCについては、トライアルのスコープに該当するEMAへの中央審査承認/市販後承認申請を求めている申請者/承認取得者は、任意でトライアルに招請される。申請者/承認取得者は、「パイロット参加レター」を通じて、PoCパイロットへの参加確認を求められる。

生データを処理する際、EMAとEU加盟国の監督官庁(NCA:National Competent Authorities)は、EUデータ保護規則(EUDPR)および一般データ保護規則(GDPR)の規則に完全に準拠して個人データを保護する。生データPoCパイロットに関するデータ保護影響評価は、2022年に実施されている。対応するデータ保護通知(リンク)および処理活動の記録(リンク)は、EMAのウェブサイトから入手可能である。

タイムラインとスコープ

PoCパイロットは、2022年9月、すなわちPoCパイロットに含まれる最初の規制上の手続きのために生データを提出することができる日に開始された。PoCパイロットは最長で2年間、EMAへ約10件の承認申請を目標として実施する。

規制上の手続き則った会議は、以下の基準を満たす場合にパイロットの対象となる

  • 規制当局の手続きの種類:EMAに一元的に提出される中央審査方式による初回販売承認申請(iMAA)と承認後の申請(一部変更や延長申請など)が対象である(特にiMAAに重点を置いる)。一部変更については、適応症の変更を提案するタイプⅡが対象となる。
  • データの種類:臨床試験から得られたデータを含む規制上の手続き。焦点は、ベネフィット・リスク評価に情報を提供するための臨床データの分析である。また、GCPの遵守状況を確認するための施設選定に資する分析も含まれる。
  • 臨床的な背景:疾患領域、適応症、申請書に記載される臨床試験の種類や数については特に制限を設けない。ただし、本パイロットにおいては、様々な規制上の手続きが適用されることを想定している。

できれば意思表示の後、申請書を提出する前の早い段階で、規制上の手続きを選択することが意図されている。手続をPoCに含めるかどうかの決定は、特定の販売承認申請/変更申請を評価するために任命されたCHMPのラポータが行う。

規制上の手続をPoCに含めても、CHMPによる科学的意見の採択が遅れることはない。医薬品庁は、iMAAについては規則(EC)No726/2004第6条、変更については欧州委員会規則(EU)No712/2012に定められた法的期限内に意見が採択されるよう確保するものとする。

参加条件

PoC パイロットのための規制上の手続きには、以下の考慮事項及び要件が適用される。

  • データ標準:臨床試験からのデータは、臨床データ交換標準コンソーシアム(CDISC)の分析データモデル(ADaM)および試験データ集計モデル(SDTM)の試験データ標準に準拠する必要がある。さらに、Define-XMLおよびオプションとしてAnalysis Results Metadata(ARM for Define-XML)を提出すること。FDA や PMDA に同様の申請を行う予定がある場合は、同じデータ標準に従うことができる。
  • 解析の種類:ベネフィット・リスク評価をサポートするためにどのような解析を行うべきかについては、CHMPのラポータが決定する。生データ解析は、加盟国NCAのCHMP担当者チーム、EMA職員、またはEMA職員と同じデータセキュリティ基準で業務を行うEMA委託業者のいずれかが実施する。
  • 結果の伝達:ベネフィット・リスク評価に関連すると考えられる分析結果は、評価報告書に記載され、基礎となった分析に関する関連情報とともに申請者と共有される。さらに、申請者/承認取得者は、質問リスト、未解決の問題リスト、補足情報の要請を通じて、解析結果を再現するよう求められる。 

PoCパイロットの申請者/承認取得者向けのQ&A文書にて、参加条件の詳細を記載している(リンク)。

応募者または承認取得者が関与する方法

申請者/承認取得者は、PoCへの参加に関心を示したり、さらに質問をしたりするためにEMAに連絡することができる(rawdatapilot@ema.europa.eu)。PoCには約10の規制上の手続きが含まれ、特定の手続きはその手続きのCHMPラポータが同意した場合にのみ含まれるため、関心を示した申請者/承認取得者の全員が参加できるわけではない。CHMPラポータが特定の手順をPoCに適していると判断した場合、EMAは申請者/承認取得者に直接連絡し、参加する意思があるかどうかを問うことがある。

PoCパイロット期間中または終了時に、EMAは外部のステークホルダーとのワークショップを開催し、PoCパイロットから得られた知見について発表・議論する。また、PoCパイロットの成果の要約は、商業上の機密情報に配慮した上で公表する。


 以上です。お疲れさまでした。

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