【EMA】分散化臨床試験(DCT)に関する推奨事項

医薬関係
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 2022年12月19日に、欧州委員会 (EC)、医薬品規制当局代表 (HMA)、および欧州医薬品庁 (EMA) は、収集されたデータの堅牢性と信頼性だけでなく、被験者の権利とウェルビーイングを保護しながら、分散化臨床試験(DCT:Decentralised Clinical Trials) の実施を促進することを目的とした推奨事項を発表しました。

Facilitating Decentralised Clinical Trials in the EU | European Medicines Agency

 これは、EUで臨床試験を加速するための共同イニシアチブ(ACT EU)の成果です。

 分散化臨床試験については、日本国内においてもコロナ禍を契機に活発に議論されるようになり、製薬協からも報告書が公表されています。

医療機関への来院に依存しない臨床試験手法の導入及び活用に向けた検討 | 医薬品評価委員会の成果物 一覧 | 日本製薬工業協会
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医療機関への来院に依存しない臨床試験手法の活用に向けた検討-日本での導入の手引き- | 医薬品評価委員会の成果物 一覧 | 日本製薬工業協会
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医療機関への来院に依存しない臨床試験手法の導入及び活用の方法に関する説明スライド集 | 医薬品評価委員会の成果物 一覧 | 日本製薬工業協会
日本製薬工業協会の医療機関への来院に依存しない臨床試験手法の導入及び活用の方法に関する説明スライド集ページです。

 欧州でも同様に、COVID-19によるパンデミックを契機に分散化臨床試験の議論がなされ、今回その考え方について、EC/HMA/EMAの3者から推奨事項が示されました。

 分散化臨床試験では、ウェアラブルデバイスやアプリを使うことが増えますが、これらの利用は被験者のプライバシーリスクを増大しかねないものであり、そのためGDPRを遵守することの重要性が強調されているのが特徴的です

 この推奨事項で示されている内容は、国内での分散化臨床試験の実施をする際の参考になると思いますので、今回はその内容を見ていきたいと思います。

目次

  1. 序論、範囲、一般的な考慮事項
    一般的な考慮事項
  2. 臨床試験の監督:役割と責任
    責任に関する考察
    受信データに対する監視の維持に関する考察
  3. インフォームド・コンセントのプロセス
    インフォームド・コンセント面談
    デジタル情報のリーフレット
    インフォームド・コンセントの署名
  4. 治験薬の配送と自宅での投与
    IMPを治験参加者に直接交付する場合の注意点
    治験参加者の自宅でのIMPの保管と投与に関する注意点
  5. 自宅での治験関連手続き
  6. 原資料の定義と取扱いを含むデータ収集と管理
  7. 治験のモニタリング

 付録:国内規定の概要

1. 序論、範囲、および一般的な考慮事項

 治験薬(IMP)を用いた臨床試験は、従来の「臨床試験実施施設」の外で行われることが多くなっているが、これは通常「分散化」と呼ばれる概念である。さらに、臨床試験におけるデジタルツールの使用も増加している。COVID-19によるパンデミックは、医療環境と臨床試験におけるデジタルツールと分散化された手続きの重要性と有用性を浮き彫りにした。COVID-19パンデミック時の臨床試験の管理に関するガイダンス(Guidance on the management of clinical trials during COVID-19 pandemic)にて、インフォームド・コンセントのプロセス、IMPの配布、特定の状況下でのモニタリングの調整を含む一連の推奨事項が提示されたが、このガイダンスは、欧州連合(EU)/欧州経済領域(EEA)におけるCOVID-19の健康危機に特化したもので、EU/EEAにおけるCOVID-19の発生期間が過ぎたというコンセンサスが得られた時点で撤回される予定である。

 臨床試験において一部の分散化された要素は以前から採用されており、これらの要素のすべてが科学的妥当性、データの完全性、ベネフィットーリスク比又は臨床試験参加者の権利の保護に重大な影響を及ぼすとは限らないことが認識されている。分散化された要素が、国際医薬品規制調和協議会(ICH)E8で定義された「品質に重要な要素」と特定された場合、リスク比例アプローチに従い、試験参加者のリスク、実施された研究の試験の完全性、試験結果の信頼性に関するリスクに適応させる必要がある。これは、規則(EU)No 536/2014(EU-CTR)の実施のための臨床試験に関する専門家グループからの臨床試験におけるリスク比例アプローチに関する推奨に沿ったものである。

 本推奨事項では、治験依頼者と治験責任医師の役割と責任、電子的なインフォームド・コンセント、IMPの交付、在宅での治験関連手続き、データ管理及び分散化臨床試験環境でのモニタリングについて取り上げる。これらのテーマに関して、各加盟国(MS)に適用される現行の国内規定の概要を付録に示す。臨床試験において分散化された要素を実施するためのすべてのシナリオの概要を示すことは不可能であるため、国内規定の付録はガイダンスを目的としたものであることに留意されたい特定の臨床試験において特定の分散化された要素の使用が許容されるかどうかは、臨床試験の審査に携わる加盟国の裁量による。治験依頼者は、特定の分散型要素の使用に関して、特に経験やその影響の証拠が限られている分散型要素については、欧州医薬品庁(EMA、scientific advice working party(SAWP))または国の所轄官庁(国またはsimultaneous national scientific advice(SNSA))経由で科学的助言を求めることが推奨される。また、治験依頼者は、特定の臨床試験に関連しない一般的な影響に関する規制上の問題について、Clinical Trial Coordination Group(CTCG)を介して統合的な意見を要求することができる。

分散化臨床試験で用いられる手法の一部は技術的には実装可能でも、プライバシーに関する規制や通信関連の規制、または治験薬の輸送や投与処置等について国によって禁止されていたり、制限されていることがあります。

EUにおける規制状況については付録に載っておりますが、これはあくまで参考程度であり法的に保証されたものではありません。また、EU以外でも同様の規制がありますので、実施に際してはご注意下さい。

 本推奨事項は、欧州委員会(EC)、医薬品規制当局代表(HMA)、EMAによるACT EUイニシアティブの優先行動8「方法論ガイダンス」の一部として作成された。本書は、HMA Clinical Trial Coordination Group(CTCG)、EC Clinical Trial Expert Group(CTEG)、EMA GCP Inspectors Working Group(GCPIWG)の協力により作成されたものである。また、European medicines regulatory network(EMRN)からの幅広い視点や、患者・医療従事者の代表による視点も含まれている。分散化臨床試験分野の急速な進展を踏まえ、新たな知見や経験が得られれば、この推奨事項も改良されていくことが期待される。

一般的な考慮事項

 医薬品の臨床試験では、電子手帳、ウェアラブル、電話、オンライン予約など、すでに多くの分散化された要素が採用されている。臨床試験でどのように分散型要素を使用するかは、臨床試験の種類、試験参加者、治療される疾患、試験参加者の状態、医薬品の種類、特性、開発ステージなど多くの要因に依存する。これらの要素は、分散型要素の利用を計画・実施する際に、個別に、また組み合わせて検討する必要がある。さらに、以下の一般的な考慮事項を考慮する必要がある

  • 治験参加者の権利、安全、尊厳及び福祉は保護され、他のすべての利益に優先すべきである。臨床試験の実施における分散化された要素の導入は、臨床試験参加者の安全、権利及び福利に対するリスクを増大させるものであってはならない。分散型要素の適切性は、特に、特定の臨床試験集団、疾患、評価の種類、治験薬の特性(開発ステージを含む)、ひいては、その有効性と安全性のプロファイルに関する現在の知識によって決まる(ただし、これらに限定されるものでない)。
  • 臨床試験に関するEU及び国内の適用法令、規制、確立された基準及び指針(例:臨床試験規則、臨床試験に関するEU及び各国の適用法令、確立された基準及び指針(例えば、臨床試験規則:CTR (EU) No 536/2014、ICH E6、ICH E8、GMP、GDP)及び医学研究の国際倫理・科学原則(例えば、ヘルシンキ宣言)の遵守が、分散型要素を使用しているか否かにかかわらず全ての臨床試験において求められる特に、一般データ保護規則(GDPR EU No 2016/679)の遵守が強調されるべきである
  • 治験依頼者及び治験責任医師は、潜在的な治験参加者、患者又は患者団体を、臨床試験のデザイン、開発及び実施に早期かつ持続的に関与させる有意義な参加型プロセスに参加させるべきである。臨床試験のデザインに早期に参加者が関与することは、科学的価値を高めると考えられる。それは、臨床試験に対する信頼を高め、リクルートを容易にし、アドヒアランスを促進するのに役立つかもしれない。また、患者は疾患と共に生きるという視点を提供し、例えば、物理的な訪問の代わりにビデオ会議による予約の実行可能性、デジタルツールの使用、患者にとって意味のあるエンドポイントの測定や適切な集団の選択など、分散型要素の選択に貢献することがある。
  • 分散化臨床試験を開発する場合、治験責任医師/医療従事者は臨床試験のデザイン、開発、実施に関与することが望ましい。治験責任医師及び医療従事者の専門知識は、臨床的に適切な目的及びエンドポイント、効率的な安全性監視及び適切な医療を確保することに貢献し得るものである。また、個人的な接触が少ないことによる影響や、データ収集の管理方法、(ソース)データの質と完全性の確認にも貢献することができる。
  • 治験参加者及び/又は治験責任医師への治験関連手続きの負担の変化は、臨床試験において分散化された要素を用いることの潜在的ベネフィットと比較検討されなければならない。治験依頼者は、治験参加者及び/又は治験責任医師が適切に業務を遂行できるよう、適切な支援を行うことができる。
  • 透明性を確保し、当局及び倫理委員会による治験の評価を容易にするため、治験申請書のカバーレターにおいて、治験で計画されている分散型要素の概要を提供するものとする
  • 分散型要素が科学的妥当性、データの完全性、ベネフィット・リスク比又は治験参加者の権利保護に重大な影響を及ぼすと判断される場合、具体的かつ文書化されたリスク・ベネフィット評価において検討されなければならないこのリスク・ベネフィット評価及びリスク軽減措置は、加盟国への臨床試験申請の一部として、臨床試験プロトコール又はその他のプロトコール関連文書に明確に記載されるべきである。これは、リスク・ベネフィット評価に影響を与える全ての要素について必要である。
  • 分散型要素を含む臨床試験においては、サービスプロバイダーの関与のもと、臨床試験の一部が従来の患者ケアセンター以外で実施される場合がある。特に、患者/治験参加者が従来の患者ケアセンターから切り離される場合、患者/治験参加者の 安全を守るための一般的な医学的ルールを守るべきである。その中には、必要な臨床試験集団に特化した医学的背景を持つ責任ある治験責任医師による、適切な解剖学的情報、身体検査及び検査・画像データを含む個々の患者のリスクプロファイルの評価も含まれる。適切なケースバイケースのレビューを確保するために、治験の申請において例外は正当化されるべきである。
  • 治験依頼者は、治験の実施に関わる資金及び資金提供者、治験責任医師、サービス提供者の間のその他の(金銭的)取り決めについて、治験申請書に記載するものとする。また、経済的利益や所属機関等、治験責任医師の公平性に影響を与える可能性のある条件についても、他の治験と同様に記載すること。
  • 分散化臨床試験は、信頼性の高い堅牢なデータを生成するように設計されるべきである。製造販売承認の根拠となる規制当局の決定については、医療機関で手続きを踏んだ試験と同じ期待に応えるデータが必要である。治験依頼者は、臨床試験の科学的品質を確保するために、予想される課題を事前に慎重に議論し、分散型要素によってもたらされる潜在的な限界にどのように対処する予定かを明確にすべきである。以下はその例である。
    • 試験における集団と対象とする集団の間に潜在的な差異があり、結果の一般化可能性について議論される可能性がある(例えば、デジタルリテラシーの低い人々やインターネット接続が 制限されている地域に住む人々を除外する可能性があるため)。
    • アウトカム評価の妥当性を議論するきっかけとなりうる修正(例:臨床試験実施施設間又は試験参加者間の分散化された手順の不均一な実施に起因する)。
    • 全体的または特定のエンドポイントにおける欠損データの増加の可能性。データ管理に関する第6章も参照のこと。
  • これらの検討は、特に製造販売承認申請において極めて重要であると認識されている試験において、最も重要である。これらの試験について、治験依頼者は科学的な助言を求めることが強く望まれる。さらに、新しい方法やエンドポイントの使用が計画されている場合は、適格性についての助言が望まれる
  • 開発・利用される IT 機器・技術は、プロトコールに従った信頼性の高いデータ収集・処理の目的に適ったものでなければならない。コンピュータシステムの使用及び/又は電子的な臨床データの作成/取得は、「臨床試験 におけるコンピュータシステム及び電子データに関するガイドライン」(Guideline on computerised systems and electronic data in clinical trials:EMA/226170/2021)に準拠したものでなければならない。
  • 特定された品質上重要な分散型要素について、デジタルツールの誤作動や計画された分散型ビジットの中断等のリスクの影響を最小化するための緊急時対応計画が策定されなければならない。
  • 体外診断用医薬品(IVD)を含む医療機器が臨床試験で使用される場合、その使用は医療機器規則(MDR)EU No 2017/745、体外診断指令98/79/EC及び/又は体外診断規則(IVDR)EU No 2017/746等の適用される医療機器法令に準拠する必要がある。

以下の章では、特定の臨床試験の局面の分散化に関するより具体的な検討事項について概説する。

2. 臨床試験の監督:役割と責任

 臨床試験の一部が施設外で実施される場合、また、訪問看護師や技術提供者等のサービス提供者が追加で関与する場合、治験依頼者、治験責任医師及び追加関係者の特定の役割と責任を、試験開始前に明確に定義し理解することが重要である。さらに、被験者が治験実施施設を訪れる頻度が低い場合、被験者の現在の健康状態の臨床モニタリング及び関連するデータ収集の代替方法を利用する必要があるかもしれない。例えば、参加者自身による自宅でのデータ収集、(外部の)医療従事者の訪問、あるいはデジタルツールによるデータ収集など、様々なルートからデータを受け取ることができる。このことは、試験参加者の権利、安全、尊厳、幸福、および試験結果の信頼性に対する監視に課題をもたらす。一般的な概念として、分散化された要素を導入することは、治験参加者の自宅を含む治験施設の拡張と考えるべきであり、その結果、治験責任医師と治験依頼者に追加の監督義務が発生する。したがって、分散型要素を導入する場合、治験責任医師及び治験依頼者がCTR、CTD及びICH E6に規定されている法的義務を確実に果たすことが重要である。さらに、臨床試験に関わる関係者が増加する可能性があるため、GDPRの遵守を保護する必要がある

 治験依頼者と治験責任医師は、データ処理、コミュニケーションの流れ、そして最終的には治験参加者の権利、安全、尊厳、ウェルビーイング、治験データの信頼性に関して、それぞれの責任範囲を常に完全に制御していることをプロトコールに反映させる必要がある。このセクションでは、治験責任医師及び治験依頼者の監視に関連する留意点について概説する。

責任に関する考察

  • 追加のサービスプロバイダーが関与する可能性があるにもかかわらず、プロトコールに記載された臨床試験特有の業務は、ICH E6に従って、最終的に治験責任医師又は治験依頼者のいずれかが責任を負うことになる。異なる関係者への業務の委任が明確に定義されていることに十分な注意を払う必要がある。臨床試験における分散化された要素の導入は、試験の実施に関連する影響を及ぼす可能性があるため、どの作業をいつ、誰が、どのような環境(例:臨床現場、被験者の自宅等)で実施し、治験依頼者による監視及び/又は治験責任医師による監督がどのように必要であるかを明確に文書化する必要がある。治験の中で行われるこれらの様々な作業や行動のワークフローの一般的な概要は、プロトコールに記載され、より詳細にはプロトコールに関連する文書に記載されるべきである。
  • サービスプロバイダーが臨床試験特有の業務を委任されている場合、それに対応する根拠及びその関与の範囲は、プロトコールに高レベルで記載され、プロトコール関連文書に詳細が記載されるべきである。治験責任医師は、治験に関連する医療上の決定(治験参加者の適格性及び登録、プロトコールの定める医療処置、投薬の変更等)並びに治験参加者の権利、安全、尊厳及びウェルビーイングに関する業務について最終的な責任を有している。外部の医療従事者の関与に関する現行の国内規定については、添付文書も参照のこと。
  • サービス提供者に委任される臨床試験特有の業務は、(ICH E6に基づく)当該業務の責任者とサービス提供者との間の書面による契約において規定されるべきである(EMA GCP IWG Q&A B.2, B.8も参照のこと)。治験依頼者がサービス提供者を選定し、治験責任医師がこのサービス提供者との契約上の取り決めに関与しない場合、治験依頼者と治験責任医師との契約は、治験責任医師の責任下にある業務に関するものであれば、サービス提供者との契約上の取り決めを明確に文書化する必要がある。これにより、治験責任医師は、治験参加者の医療に関連する特定の治験特有の業務について、サービス提供者の配備に同意するか否かを決定することができる。前述したように、本文書の一般的な考察では、臨床試験における分散化された要素を設計する際に、早い段階から治験責任医師が関与することが推奨される。そうすることで、治験責任医師の責任下にある治験特有の業務に対するサービス提供者の利用に関して、治験責任医師のニーズが何であるかを早い段階で評価することができる。
  • 治験依頼者は、契約したサービス提供者が治験のために実施する業務について資格と経験を有していることを確認する必要がある。このことは、治験責任医師が、委任された業務が治験責任医師の責任の範囲内にある場合に、サービス提供者の資格を認識し、同意するか否かを決定できるよう、治験依頼者と治験責任医師との間の契約に反映されるべきである。治験責任医師は、必要な配慮を行うために追加情報を求めることができ、また、特定のサービス提供者を拒否する可能性を含め、必要と考えられる場合には契約又はサービスの変更を要求することができるものとする。
  • サービス提供者が実施しなければならない臨床試験特有の業務が、臨床試験参加者の医療に関係する場合、又は治験責任医師の責任範囲にある場合には、サービス提供者が適切に訓練されていることを確認することは治験責任医師の責任である。
  • 治験参加者の医療及び安全に関する治験責任医師の責任を維持し、治験依頼者が臨床試験の実施に関して適切な監視を行えるようにするため、有効なコミュニケーションラインを確立し、 文書化し、治験参加者、治験責任医師、治験依頼者及びサービス提供者を含む全ての関係者と共有するべきである。すべての関係者は、治験の実施に関連する役割と責任を果たすために必要な情報にいつでもアクセスできるようにしなければならない。緊急事態が発生した場合、すべての関係者が過度の遅滞なく行動できるよう、効果的なコミュニケーションプランを策定する必要がある。治験参加者は、緊急時だけでなく、機器の故障や家庭訪問に関する質問など、必要なすべての状況について十分な情報を与えられ、連絡先の詳細を受け取る必要がある。

受信データに対する監視の維持に関する考察

  • 治験に参加する被験者、治験責任医師、サービス提供者は、適切なデータ収集、レビュー、送信を確実に行うために、治験で使用するデジタルツールの使用方法に関する研修を受けるべきである。また、治験参加者及びサービス提供者は、何が(重篤な)有害事象(AE)とみなされるか、誰に、どのような期間内に報告すべきか、(S)AE をどのように管理するかについての研修を受けるべきである。
  • AE が複数の経路(デジタルツール、外部の医療従事者、試験参加者)で報告される場合、重複の可能性を識別する手続きが重要である。 
  • デジタルツール(ウェアラブル等)の使用により、入力されるデータ量が増加する。これは、治験責任医師がその責任を果たすための能力を問われる可能性がある。新しいデータは絶えず手元にある可能性があり、この絶え間ない情報の流れをどのように扱うかについて、明確な手順を設ける必要がある。治験責任医師による受信データのレビュー頻度は、試験参加者の安全及び健康に対するデータの関連性、並びに有効性に対するデータの関連性に基づいて決定されるべきである。 安全性データのレビューは、IMPの安全性プロファイル、適応症、既知の潜在的リスク、通知や警告の使用など、リスクに基づいた視点で計画されるべきである。優先順位は、治験責任医師及び/又は治験参加者に許容できない負担をかけずに、適時にSAEを把握し評価することである。SAE関連データの適時評価を確実にするために、通知やアラートの利用が推奨される。デジタルツールを用いた試験を設計する際、治験依頼者及び治験責任医師は、どのような安全性アラートが発生するかを予測し、これらのアラートをどのように扱うかをプロトコールに明記すべきである。もし、デジタルツールによって、早急な医療措置が必要な重大な安全性データが発生することが予測される場合、そのことを記述した計画が必要である。治験責任医師及び/又はサービス提供者がこのような状況をどのように管理するか、どのような行動を誰がとるか、プロトコールに概説する必要がある。関係者、情報の流れ、それぞれの職務を図式化することが推奨される。治験参加者は、このような状況下で何を予期し、どのような行動を取る必要があるかを知らされている必要がある。さらに、関係者の義務や情報の流れを参加者向けに図式化することで、理解を深めることができるかもしれない。
  • 治験依頼者は、デジタルツールが必要なアラートを計画通りに送信していることを確認する必要がある。治験責任医師への警告を発生させるツールは、バリデートされるべきである。ツールが意図したとおりに機能しない場合のために、リスク軽減計画を設けるべきである。
  • デジタルツール(例えば電子被験者報告アウトカム(ePRO))を介して送信された情報がどのように扱われるかについて、治験参加者に事前に十分な情報が提供されるべきである。治験責任医師は、このようなデータをリアルタイムで確認することはできないこと、また、治験参加者が安全性に何らかの懸念を抱いた場合は、治験責任医師に直接連絡し、そのような問題を報告する必要があることを治験参加者に明確にする必要がある。

3. インフォームド・コンセントのプロセス

 臨床試験の重要な点は、臨床試験参加希望者が自発的にインフォームド・コンセントを行い、参加することである。同意を得るために、参加候補者は十分な情報を必要とする。インフォームド・コンセントは、倫理的・法的な重要性だけでなく、治験責任医師と治験参加者の間の良好なコミュニケーションは、相互の信頼に有益であり、治験のコンプライアンスを促進する可能性がある。したがって、インフォームド・コンセントのプロセスを遠隔で行うこと、デジタル情報のリーフレットを使用すること、インフォームド・コンセントフォームの署名に電子的方法を使用することの妥当性を考慮する場合、いくつかの側面を徹底的に評価する必要がある。これには、臨床試験のデザイン、臨床試験参加者の特徴、臨床試験への参加に関連するリスク、負担、潜在的な利益などが含まれる。

 インフォームド・コンセントを得るための手続き全体、すなわち、被験者の選択、適格性の評価、実際のインフォームド・コンセントのプロセスは、適切な倫理的審査を確保するために、臨床試験の申請書に段階的に記述する必要がある。この手続きの一部として身体検査を行わない根拠は、プロトコールまたは他のプロトコール関連文書に記載されるべきである。また、治験依頼者は、インフォームド・コンセントを得るために選択した方法をプロトコールに記載されたい

 インフォームド・コンセントの一部または全部を遠隔で行う場合でも、CTRやCTD、ICH E6、GDPR、国内法令に定められた原則を遵守して実施する必要がある。  

インフォームド・コンセント面談

 ICH E6では、治験参加候補者全員に治験に関する十分な情報を提供し、質問する機会を与えることを求めている。一般的に、これは治験責任医師と治験参加候補者との物理的な面談であるべきである。しかし、場合によっては、これを遠隔で行うことが正当化されることがある。治験参加者が社会的弱者であればあるほど、IMPの有効性と安全性に関する現在の知識が限られていればいるほど、治験のコンセプトが複雑であればあるほど、また治験特有の介入に伴うリスクが高ければ高いほど、インフォームド・コンセントのために治験参加者と治験責任医師との直接の面談が必要である。治験参加候補者が治験実施医療機関に来院しない場合、治験申請書において以下の点を考慮し、対応する必要がある。

  • インフォームド・コンセントを得るためのプロセスの一環として、治験参加候補者と治験責任医師又は治験責任医師が指名する有資格者との間で対面によるコミュニケーションが行われることが不可欠であると考えられる。この話し合いがデジタル/バーチャル会議で行われる場合、当事者同士が音声や映像で確認し、リアルタイムでコミュニケーションをとることができることが推奨される。遠隔対面での接触では、質問をすることができ、治験責任医師が参加者についてまだ知らない場合には身元を確認するよう努力すべきであり、逆に参加者は、以前に接触したことがない場合には治験責任医師の身元を証明するよう求める権利を有するべきである。(遠隔)対面コミュニケーションからの逸脱は、治験申請書において、そのような場合に治験責任医師と治験参加者の身元確認がどのように行われるか、また、治験参加者が情報を理解したとどのように判断されるかについての説明とともに、正当化されなければならない。現在の国内規定については、付録も参照のこと。
  • 治験依頼者は、治験参加者又は治験責任医師が希望する場合には、インフォームド・コンセントの面談を現場で行う選択肢を提供することを保証するものとする。ただし、十分に正当化される場合には、遠隔地での選択肢のみを提供することができる。
  • 臨床試験の分散化された要素の使用に影響を与える個々の参加者に関連する要因は、インフォームド・コンセントの面談時に治験責任医師が評価するものとする。
  • 使用される方法の信頼性と機密性が確保されるべきである。一般的な原則として、インフォームド・コンセントの面談に使用される通信手段は、議論される機密情報を保護するために暗号化されるべきである。

デジタル情報のリーフレット

  • さまざまな種類のメディアを使用することで、治験参加者の治験に対する理解度を高めることができる。しかし、電子的な方法の使用を検討する場合、治験依頼者はその使用により、そのような技術を使用できない、または使用したくない参加者を意図せず差別する可能性があることにも注意すべきである。電子的な情報提供のための代替手段を利用できるようにしなければならない。治験依頼者がデジタル情報リーフレットのみを提供する場合は、例外となる可能性がある。このような場合、プロトコールに記載され、治験申請書において正当化されるべきである。
  • 治験依頼者は、治験実施医療機関及び/又はそのデータ保護責任者が同意プロセスにおける電子的手法の使用及び保存に承諾するかどうかを確認する責任を負う。
  • 治験参加者に提供される情報は、治験参加者が保存し、検索できる形式であることを確認する必要がある。

リーフレットだけでなく、臨床試験で利用するePROを目的としたアプリやウェブサイトなどでも言えることですが、YouTubeとかインスタのような、第三者(サードパーティー)にCookie情報が流れることが前提になっているプラットフォームの使用やSDKを用いたアプリ・ウェブサイトの開発は避けるべきでしょうね。

インフォームド・コンセントの署名

  • 署名されたインフォームド・コンセントフォームを遠隔の手段で取得する方法はさまざまである。これには、たとえば「ウェットインク署名」で署名して参加者に送り、郵便で送り返す紙の同意書や、電子署名で署名したデジタル同意書、つまり完全にデジタル化された同意書などがある。
    インフォームド・コンセントの形式にかかわらず、その方法は、署名の有効性を含め、プロセスの再構築を可能にするものでなければならない。治験依頼者は、使用するシステムが相応のセキュリティレベルを有し、機密保持に関する保護措置が講じられていることを確認する必要がある。一般に、電子署名の機能は、「臨床試験におけるコンピュータ化されたシステムと電子データに関するガイドライン(Guideline on computerised systems and electronic data in clinical trials)」に記載された要件に従うべきである。
    さらに、インフォームド・コンセントを記録するために使用される方法は、電子署名の容認性に関する国内要件に従うべきである(現在の国内規定については、付録を参照)。
  • 電子的な方法を用いる場合、臨床試験参加者は、署名及び日付の入ったインフォームド・コンセントの電子コピーをダウンロードするか、電子コピーのプリントアウトを受け取ることができるべきである。電子コピーの場合、それは変更に対して保護されるべきであり、いかなる変更であっても署名を無効とすべきである。
  • 再同意に関する既存の手続きは、電子的に署名された同意書の使用に適合させるべきである。
  • 患者の参加とデータ収集に影響を与えるため、部分的撤回や完全撤回を含め、電子的に同意が撤回された後のフォローアップ手順を処理するための手順が整備されていなければならない。これらの手順には、治験責任医師への適時の通知と、他のすべての利害関係者とのコミュニケーション計画が含まれるべきである。いかなる手段であれ、システム外での撤回も可能であり、このことは治験責任医師によって記録されなければならない。

4. 治験薬の配送及び自宅での投与

 IMPを治験参加者の自宅で投与することを意図している場合、その方法が適切かどうかを判断するために、リスクアセスメントを実施しなければならない。リスクアセスメントは、少なくとも以下の点を考慮しなければならない:IMPとその安全性プロフィールの知識と不確かさ、投与経路、試験参加者、観察期間の必要性の有無、緊急計画の必要性、投与のための最終IMPの準備、安定性、保管条件、IMP配送物流の頑健性(意図しない受取人に不用意にIMPを渡してしまう危険性)。

 CTRは、加盟国の臨床試験実施規則の調和を図るとともに、公衆衛生を確保するためにIMPの品質と安全性について高い基準を設定することを目的としている。従って、IMPのEUへの輸入には認可が必要であり(CTR第61条)、IMPの輸送にはGDPの適用原則を考慮しなければならない。IMPの輸送と、治験依頼者と治験施設または薬局との間のIMP輸送に関する契約上の合意は、「臨床試験実施に関する基準及び製造管理及び品質管理基準に従ってヒト用の治験薬の取扱い及び輸送に関する治験依頼者の責任に関するガイドライン(Guideline on the responsibilities of the sponsor with regard to handling and shipping of investigational medicinal products for human use in accordance with Good Clinical Practice and Good Manufacturing Practice)」によってカバーされている。しかし、治験参加者へのIMPの配送は、このガイドラインの範囲外である。  

 このセクションでは、IMPの配送と治験参加者の自宅での投与について考察する。

IMPを治験参加者に直接交付する場合の注意点

  • IMPが治験実施医療機関の治験責任医師又は委任を受けた医療従事者によって治験参加者に調剤されない場合、参加者への配送を担当する業者は、可能な限り医薬品の配送又は調剤を行う権限を有することが推奨される。物流に使用される非認可業者は、GDPの原則に従って、認可保持者による資格認定および監督を受けなければならない。各当事者の義務を明確に定める書面による契約が必要である。個別の輸送ステップの数を最小限にすることが推奨される。
  • 治験責任医師は、治験参加者の自宅へのIMPの配送前に、(例えば処方箋や対話型応答技術システムにて)文書化されるべき治療法の決定について、引き続き責任を負うものとする。参加者の自宅への配送は、参加者がIMPの受け取りを希望する他の適切な住所を意味することもある。ただし、以下のことが条件となる。
    • 規制要件が遵守されていること
    • 製品の品質及び完全性に影響を与えうる条件にさらされるリスクが最小化されていること
    • ヒト用医薬品の GDP に関するガイドラインの適用原則が考慮されていること

指定された住所が海外である場合、その国の国内法が IMP の配送を許可しているかどうかを確認する必要がある(国内規定に関する付録を参照)。また、治験参加者自身による追加輸送を避けるため、指定された住所は、IMPが保管され投与される場所であるべきである。

  • IMPを治験参加者の自宅に配送する方法には、国の規定で認められているものによって、いくつかの選択肢がある。これには、治験実施医療機関の薬局から、委任された薬局から、またはデポから配送することができる。治験依頼者は、プロセス及び契約又は協定に関する全体的な責任を有し、ICH E6に従った治験責任医師の責任を反映すべきである。IMPの治験参加者宅への配送に関する加盟国の許容される選択肢については、付録を参照されたい。IMPの治験参加者への配送の手配は、臨床試験プロトコール又は治験薬概要書に記載されなければならない。
  • 治験依頼者は、IMPの交付に必要な治験参加者の個人情報が、GDPRに基づき、知る必要がある場合に利用されることを保証しなければならない。例えば、個人データはIMPの提供に関わる者のみがアクセスでき、IMPの提供以外の目的で保存されないことが保証されなければならない。個人データへのアクセスは、最終的な納品が完了すると同時に制限されるべきである。情報は、モニタリング、監査、検査、および治験参加者のGDPRの権利行使のためにのみ利用できるようにする必要がある。
  • 治験参加者は、インフォームド・コンセントの過程で、IMP が治験参加者の自宅に配送される場合、その連絡先が配送のために使用されることを認識するべきである。連絡先情報の使用に関する詳細は、参加者へ説明されているはずである。
  • IMPを配送する際には、治験参加者(または、該当する場合は代理人)または臨床試験に携わる現在の医療専門家のみに手渡すべきである。治験依頼者は、IMPの受け渡しに関する手順を定めておくべきである。IMPの受領に関して、手順は、発送されたものが実際に配達されたことを確実にするために、IMPの同一性(例えば、バッチ番号)の確認に関する手順と責任を詳述すべきである。場合によっては、治験参加者(またはその代理人)が、IMPの受領を受け、署名することができないかもしれない。この場合、IMPはサービス提供者が元の場所(治験責任医師の施設、(中央)薬局、デポ)に持ち帰る必要がある。
  • IMPを治験参加者の自宅に配送する代わりに、CTRまたはCTDの表示要件が満たされ、かつ国の要件が許せば、IMPは地元の薬局で(治験責任医師が発行する処方箋に基づいて)調剤することができる(付録を参照)。特に、治験依頼者は、表示要件に関して CTR 第61条第5項を参照するよう留意されたい。現地の薬局は、IMPの処方が臨床試験の一環であることを認識し、必要であれば、IMPを調剤するための訓練を受けるべきである。  

治験参加者の自宅でのIMPの保管と投与に関する考慮点

  • 治験依頼者と治験責任医師は、臨床試験の計画段階で、IMPの適切な保管条件を満たす方法と、IMPが自宅での投与に適しているかどうかを検討するべきである。選択/除外基準には、必要に応じて温度管理や出入りの制限など、IMPを保管するための治験参加者の自宅の適切さに関する規定を含めるべきである。治験依頼者は、IMPの保管に必要な追加の機器を試験参加者に提供することを検討してもよい。このことは、プロトコール又は他のプロトコール関連文書(例:薬局マニュアル)に記載され、参加者に提供される文書も含まれるべきである。治験責任医師は、IMPの使用と保管について、治験参加者に指示を与えるべきである。この指示は、現実的で実行可能なものであるべきで、試験参加者の追加的負担は、前述のリスク評価の一部であるべきである。
  • 治験責任医師及び治験依頼者は、自宅での投与が治験参加者自身で可能か、あるいは訓練され、経験を積んだ有資格の医療従事者が投与に必要かを検討する必要がある複雑な投与、特別な準備や取り扱いが必要な場合、あるいはIMPの安全性プロファイル(例えば、投与に関連する未知のあるいは潜在的な重篤な有害事象)が要求する場合には、常に医療従事者が関与するべきである。
  • 一般的に、IMPが医療従事者によって投与される必要がある場合、治験参加者に直接出荷することは適切でないだろう。IMPを治験参加者に別途直接発送する必要がある場合は、医療従事者の訪問前にIMPの保管方法を明確に指示し、また、医療従事者の訪問前や治験責任医師の決定前にIMPを投与してはならないことを明確に説明する必要がある。
  • プロトコールに記載されたとおりに治験参加者がIMPを準備し投与することが予想される場合、これらの点について事前に指示する必要がある。適切な場合には、IMPのラベルやパッケージ・リーフレットに記載されていることに加えて、投与方法の説明と同様にこれらの手順についても説明する必要がある。これらの指示は、個々の臨床試験参加者のニーズに合わせるべきである。簡単かつ迅速にアクセスできる電子的なステップバイステップの説明書(QRコードのスキャンなど)の使用も検討され得る。IMPの安全性プロファイルによっては、治験責任医師はIMPの初回投与後、IMPの適切な取り扱いを確認するために治験参加者に連絡する必要がある。治験依頼者は、IMPの安全な投与、使用及び廃棄に必要な追加の機器を治験参加者に提供することを検討してもよい。この場合、このことは、参加者に提供する文書を含め、プロトコール又は他のプロトコール関連文書(例:薬局マニュアル)に記載されなければならない。
  • 治験責任医師は、IMPが適切にかつIMPの説明書に従って服用されていることを確認するために、定期的に参加者のフォローアップを行うべきである。
  • IMPの説明責任及び治験参加者の治療遵守のための手順が整備されていなければならない。これらの業務は、ICH E6によれば、治験責任医師の責任に属する。
  • プロトコール及び地域の安全要件に従って、治験参加者の自宅からIMPを返却し、未使用のIMPを廃棄するための手順を定めておくべきである。この手順は、試験実施中のリコール、及び想定される治療期間を超えてIMPが試験参加者の自宅に残ることを避けるための措置もカバーすべきである。

5. 自宅での治験関連手続き

 分散化臨床試験においては、治験参加者の自宅等、治験実施医療機関の外で治験に関連する手続きが行われることがある。これらの手続きは、治験参加者、治験参加者の自宅を訪問する治験責任医師、又は治験のために契約し、その実施を委任された者が行うことができる。自宅で行われるこれらの手続きや検査については、以下のような配慮が必要である(ただし、これらに限定されない)。

  • 治験責任医師は、治験参加者の自宅の状況及び敷地が、自宅で治験に関連する手続きを行うのに適しているかどうかを確認する必要がある。自宅訪問を排除しうる個人的/社会的状況があることを考慮する必要がある。
  • 選択/除外基準には、在宅での重要な臨床試験関連手続きのための被験者の自宅の適切性に関する規定を含めるべきである。治験参加者は、インフォームド・コンセントの過程で、自宅で行われる予定の治験手続きについて知らされる必要がある。
  • 自宅での臨床試験関連手続きの実施は、その手続きが臨床試験参加者またはデータの信頼性に新たなリスクをもたらさず、その作業を行う者がその作業を行うための資格および/または訓練を受けたものである場合にのみ行うものとする。例えば、生物試料を自宅で採取する場合、試料採取者が試料採取の資格を有し、法律で許可されているかどうかを検討すべきである。さらに、全プロセスを通じて、試料の適切な取扱いと保管条件が保証される必要がある。
  • 治験参加者が治験に関連する手続きを行う場合、適切な研修が行われ、デジタルデータ収集に関連する手続きを含め、治験参加者の追加負担が適切に考慮されていることが確認され るべきである。
  • 治験依頼者及び/又は治験責任医師は、委任された者が在宅で正しく業務を行うことができるよう、適切な指導及び訓練が行われることを確保しなければならない
  • 在宅での治験に関連する業務に起因する損害をカバーするために、CTR又はCTDが予見している保険、補償、保証又は同様の取り決めがなされていること
  • 治験責任医師は、治験参加者と治験責任医師又は治験分担医師の直接の面会回数が不足又は減少していることを考慮し、治験参加者の遵守状況を監視するものとする。
  • 治験参加者は、必要な場合/希望する場合には、直接治験責任医師を訪問する機会を与えられるべきであり、治験に関連する業務/データ収集のためにさらなる支援が必要な場合には、直接連絡を取ることができるようにしなければならない。
  • 治験参加者又は委任を受けた者が自宅訪問中に気付いた有害事象の報告及び管理のための手順が定められているべきである(受領した安全性データの監視を維持するための考慮事項については第2章も参照のこと)。
  • 治験依頼者は、治験参加者が自分専用の機器(携帯電話、タブレットなど)を使って治験データを収集することができない、またはその気がない場合、代替手段を提供するべきである。

6. 原資料の定義と取扱いを含むデータ収集と管理

 分散化臨床試験の特徴は、データ収集が治験責任医師/治験実施医療機関から治験参加者及び/又はその介護者及び/又はサービス提供者(訪問看護師等)に広範囲に移行することである。 電子システム(電子症例報告書、ePRO、ウェアラブル等)による直接のデータ収集は、例えば、臨床試験実施施設や施設外の場所で行われることがある。

 ICH E6 によれば、臨床試験中に記録されるデータは、信頼性、確実性及び検証可能である(credible, reliable and verifiable)べきである。さらに、GDPRに基づくデータ保護要件を遵守する必要がある(第1章、一般的考慮な事項も参照)。

 複数のシステム及び関係者を利用することは複雑性を増すため、治験依頼者による適切な監視及び適切な措置の実施が必要である。このため、治験依頼者は以下を行うべきである。

  • 臨床試験に関わるすべての関係者がデータの流れの概要を理解していることを確認する。プロトコールにデータフロー図を掲載し、さらに説明を加えることが強く推奨される。
  • 使用するデータ収集ツールが、その使用目的に従って設定され、バリデートされていることを確認すること
  • 収集する治験参加者の個人データの種類と範囲を決定し、プロセスのあらゆる段階において、かかる個人データのGDPRに準拠した適切な保護を確保すること。
  • データ収集ツールで取り込んだソースデータを別の場所に転送し、その後データ収集ツールから不可逆的に削除する場合、データとメタデータの両方が転送されることを保証すること(ICH E6 1.63 Certified Copy参照)。
  • データ収集ツールからサーバーにデータを転送する際には、不正アクセスのリスクを最小化するため、暗号化などの手段を導入すること。
  • 試験データへのアクセスは、関係者全員に対して定義されたユーザー権限及びアクセス方法によって確実に管理する。不正アクセスは、ファイアウォール等の適切なセキュリティ手段を用いて防止すること
  • 治験責任医師は、オンサイトまたはオフサイトで作成されたソースデータ及び治験依頼者に報告されたソースデータ(例:中央研究所のデータ)の両方を管理し、継続的かつ完全にアクセスできるようにすること。

 治験参加者が直接測定・入力したデータ、特に主要評価項目、副次的評価項目又は安全性の評価項目に関するデータの誤入力のリスクは、適切な手段により最小化されるべきである。

 デジタルデータキャプチャシステムに特有の要素に関する追加の助言は、EMA Scientific Advice Working Party(SAWP)による「eSource Direct Data Capture(DDC)に関する適格性意見(Qualification opinion on eSource Direct Data Capture (DDC))(EMA/CHMP/SAWP/483349/2019)」及び「臨床試験で使用するコンピュータ化システムのバリデーション及び適格性に関する治験依頼者への通知(Notice to sponsors on validation and qualification of computerised systems used in clinical trials)(EMA/INS/GCP/467532/2019)」で見ることができる。さらに、EMA GCP事項Q&A B3「ソースデータをどのように、どこで定義すべきか(How and where should source data be defined)」EMA GCP事項Q&A B5「ウェブベースアプリケーションを使用する場合、CRFの治験責任医師のコピーに何を期待するか(What are the expectations of the investigator’s copy of the CRF when using a web based application)」にも言及されている。

7. 治験のモニタリング 

 治験のモニタリングは、臨床試験における品質管理プロセスの一部である。

  • ICH E6 に詳述されているように、モニタリング戦略は臨床試験の特殊性に基づくべきである。これらの特殊性には、該当する場合、前節で述べた分散化されたプロセス及びツールが含まれる場合がある。例えば、プロトコールに従って、安全性及び/又は有効性のデータが ePRO 又はウェアラブルを介して収集される場合、又は主要なプロセス(例えば、主要評価項目に関するもの)が治験実施施設以外(例えば、中央判定施設、中央検査室)で行われる場合、これらの分散化したプロセス、ツール、場所、及び関係者に関連する特定のリスクをモニタリング戦略に考慮する必要がある
  • モニタリングの手順は、集中モニタリングとサイトモニタリングに分けられるが、一般に両者の組み合わせが適切である。サイトモニタリングは、通常、現場で実施される。その目的と適性によっては、オフサイト(遠隔)で実施されることもある
  • モニタリングの目的でリモートアクセスを確立する場合、必要性と比例性の原則を常に遵守する必要がある。選択されたモニタリング戦略は、現場に過度な負担をかけないようにしなければならない
  • ソースデータ及び文書へのリモートアクセスが予想される場合、データアクセスの機密性及びシステムのセキュリティに関する追加措置を講じる必要がある。これに関するさらなるガイダンスは、GCP IWGが起草中である。モニターまたは監査担当者による医療記録への遠隔アクセスが認められるかどうかについては、加盟国ごとの現行の国内規定の概要に関する付録を参照のこと。 

付録:国内規定の概要

 この国内規定の概要は,法律及び/又は規則の解釈を意図したものではなく,手引きのみを目的としたものである。

 国内規定の概要に記載された質問に対する回答は,各加盟国によって与えられ,推奨事項に示された文脈及び一般的推奨に関連するものである。推奨事項内の関連セクションの参考文献は、質問の見出しに記載されている。

 各加盟国の脚注は、国家提供の概要に続く表に記載されていることに留意されたい。「No」または「Yes」の根拠となる法律、背景、条件を注釈に示している。

 国別提供の概要は、新しいデータが出てきたときに更新される。

以下、各国の回答が示された表が続きますが、ここに貼り付けるのは大変なので、原文からご確認下さい。

https://health.ec.europa.eu/system/files/2022-12/mp_decentralised-elements_clinical-trials_rec_en.pdf#page=19

 以上、欧州における分散化臨床試験(DCT)に関する推奨事項でした。

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