【FDAガイダンス案】リアルワールドエビデンス:医薬品・生物学的製剤の非介入試験に関する考慮事項

医薬関係
この記事は約10分で読めます。

 2024年3月に、FDAは「Real-World Evidence: Considerations Regarding Non-Interventional Studies for Drug and Biological Products Guidance for Industry」というガイダンス案を公表しました。

Guidance for Industry
Real-World Evidence: Considerations Regarding Non-Interventional Studies for Drug and Biological Products

 このガイダンスは、FDAにおけるリアルワールドデータ(RWD)/リアルワールドエビデンス(RWE)に関する一連のガイドラインの一つとして追加される予定のものであり、2024年3月現在では、2024年6月20日までパブリックコメントが受付けられています。

 このガイダンスの作成目的にも関わるのですが、このガイダンス案では、製薬企業がFDAに対し医薬品の承認申請等の薬事規制への対応を目的に補助的な資料としてRWDを用いた非介入研究(観察研究)の結果を利用したい場合の注意点について言及されています。

 それでは早速、その中身を見ていきます。

I. はじめに

 本ガイダンスは、医薬品の有用性/安全性の実質的なエビデンスを示す目的で、FDAに非介入試験(観察試験ともいう)の提出を検討している治験依頼者と治験責任医師への推奨事項を提供するものである。具体的には、本ガイダンスでは、治験依頼者がこのような規制目的で非介入試験を提案する際に考慮すべき、非介入試験のデザインと解析に関する属性について論じている。

 本ガイダンスにおいて、非介入試験とは、患者が日常診療中に対象薬剤の投与を受け、プロトコールに従い介入群に割り付けることがない試験のことである。医薬品の有用性や安全性を評価するための非介入試験デザインの例としては、(1)観察コホート試験(日常診療中に投与された、または投与されなかった薬剤によって患者を群分けし、その後の生物医学的アウトカムや健康アウトカムを測定する);(2)健康関連の生物医学的または行動学的アウトカムの有無に基づいて研究グループを分けた上で、それまでに受けた治療を特定する、ケースコントロール研究;および(3)自分自身が対象となる自己対照研究(例:case-crossoverや自己対照ケースシリーズなど)、を含むが、これらに限定されない。非介入研究で使用されるリアルワールドデータ(RWD)の信頼性と妥当性は、適切な因果推論を行うために極めて重要であり、添付文書の変更を支持したり、安全性の懸念に対処するためのリアルワールド・エビデンスを作成するために使用するデータの適合性を確立するために不可欠である。RWDを考えるとき、信頼性という用語には正確性、完全性、追跡可能性が含まれ、関連性という用語には主要な試験変数(曝露、アウトカム、共変量)のデータ入手可能性と、研究を代表的する十分な患者数が含まれる。FDAは、規制上の意思決定を支援するために、電子カルテ(EHR)や医療請求データ、レジストリーのデータを使用する際の使用適合性(すなわち、信頼性と妥当性)に関連する問題を扱ったガイダンスを公表している。当局はまた、RWDデータソースに由来する試験データを含んだ医薬品の申請において、FDAが現在サポートしているデータ標準を使用する際の考慮事項に関するガイダンスを公表している。さらにFDAは、RWDへのアクセス、試験モニタリング、安全性報告、その他の治験依頼者の責任など、RWDを使用する非介入試験に関する規制上の考慮事項を記載したガイダンスを公表している。先に公表されたガイダンスで議論された2つの論点は、非介入試験の計画段階において特に関連する:すなわち、提案された適応症について関心のある研究課題に取り組むために、(1)試験デザインと実施方法の事前規定と(2)非介入試験デザインを用いることの妥当性を検討するためのFDAとの早期の連携、の重要性である。ここで議論される事項は、これら他の全てのガイダンスの推奨事項と合わせて考慮されるべきである。

 本ガイダンスは、医薬品の有用性を証明するために非介入試験を用いる可能性への関心の高まりに対応するものである。FDAは以前に、薬剤曝露に関連するリスクを評価するために電子的なヘルスケアデータを使用する薬剤疫学的安全性試験の実施と報告に特化したベストプラクティスを記載したガイダンスを発表している。ここで示された広範な疫学的原則は、薬剤疫学的安全性試験にも関連しうる。

 一般に、FDAのガイダンス文書は法的強制力のある責任を定めるものではない。その代わり、ガイダンスはトピックに関する当局の現在の考え方を記述したものであり、特定の規制または法的要件が引用されていない限り、推奨事項としてのみ見なされるべきである。当局のガイダンスでshouldという言葉が使われているのは、何かが提案または推奨事項であることを意味するが、必須事項ではない。

II. 背景

 医薬品の臨床試験を実施する目的は、医薬品の有用性を、病気の経過による自然な変化、プラセボ効果、バイアスのかかった観察などの他の影響から区別することである。非介入研究(例えば、コホート研究デザインを用いて分析された日常診療中に作成されたEHRデータ)に基づく場合、(1)交絡(例えば、比較できない治療群による)、(2)その他のバイアス(例えば、試験対象患者の選択方法、アウトカムを評価するための追跡期間の指定が間違っている場合、アウトカムの測定精度が曝露患者と非曝露患者で異なる場合、重要な変数のデータが無作為でなく欠落している場合)の影響を受けた推定値に基づいている場合、導き出される推論が正しくない可能性がある。このような交絡やその他のバイアスの原因を特定し、対処することは、非介入研究を計画・実施する上で非常に重要である。

 従って、治験依頼者及び研究者は、製品の安全性及び有用性に関する規制当局の決定をサポートすることを目的とした試験において、非介入試験デザインを選択する前に、そのような試験デザインとその実施により、真の治療効果を他の影響から区別できる可能性がどの程度あるかを検討すべきである。

 本ガイダンスの残りの部分は、治験依頼者が事前に規定したプロトコールと解析計画書(SAP)を作成する前に検討すべき事項を含め、規制当局の意思決定に非介入試験の使用を検討する際に一般的に遭遇する課題を特定し、それに対処することを支援するものである。

III. 非介入研究の考慮事項

A. 概要

 このセクションでは、有用性/安全性の実質的なエビデンスの実証をサポートするために、治験依頼者がこの種の研究を実施する際に考慮すべき、非介入試験のデザインと解析の重要な特性について記述する。本ガイダンスで言及されていない他の属性も、特定の試験にとって重要である可能性がある。FDAは治験依頼者に対し、非介入試験を計画する初期段階から当局との関わりを持ち、研究のデザインと提案された実施に関連する期待を明確にするために必要で十分な情報を提供することを強く推奨する。記載された全ての属性に関する詳細な情報は、FDAとの早い段階で入手できなかったり、記載することが可能でない場合もあるが、非介入試験デザインの提案を成功させるには、該当する場合、以下に列挙された各要素に十分に対応する必要がある。利用可能なデータソースがこれらの各属性に満足に対応できる提案をサポートしない場合、代替の研究計画を検討すべきである。

B. 提案されたアプローチの概要

 治験依頼者は、研究実施を開始する前に、関心のある研究課題と研究デザインの根拠を含むプロトコールを固めるべきである。治験依頼者はまた、提案された方法を決定する前に検討した別の研究方法と候補のデータソースを簡潔に要約し、特定の研究課題に答えるために別の方法(例えば、無作為化試験、単群試験)が実行可能でなかった理由を論じるべきである。この議論には、対象となる薬剤の使用と関心のあるアウトカム、ならびに提案された試験集団における曝露、アウトカム、関連する共変量の把握についての深い理解が反映されるべきである。

 FDAが非介入研究の提案を評価できるようにするため、治験依頼者は以下に示す各試験の属性に関する情報を提供すること:

  • 研究課題(研究目的)と仮説
  • 提案された非介入研究デザインを用いる理由
  • 研究デザインの選択(コホート、症例対照、自己対照など)
  • 研究目的と仮説に対処するためのデータソースの選択案、および考慮した代替データソース
  • 研究問題を解決するために使用するデータソースを評価し、治療群の結果を評価せずに潜在的な研究の統計的精度を見積もるために実施された、予備的または実現可能性のある研究の結果
  • 因果推論をサポートし、交絡やその他のバイアスに対処するための提案されたアプローチ(例:標的試験のエミュレーションやその他の概念的アプローチ)
  • 倫理的配慮(例えば、被験者保護に関する問題)にどのように対処するかの記述

C. 研究デザイン

 治験依頼者は、事前に特定された研究課題に基づき、研究デザインの要素を作成する。各プロトコールには、以下に示す重要な要素をそれぞれ簡潔に記述する:

  • 全体的な研究デザインを記述するシェーマ、及び理論化された因果関係を明記する因果関係図
  • ソースの集団(すなわち、研究集団が抽出される集団)
  • 適格基準および研究集団(すなわち、分析が実施される集団)
  • 対象となる主要変数の概念的定義と運用上の定義、および運用上の定義に関するバリデーションの状況(該当する場合)
  • 関連する共変量(例:併用治療)と潜在的バイアスに対処するための対応策
  • 不死時間バイアスによる潜在的なバイアスに対処するための方策を含む、全群のindex date(ゼロ時点)とindex dateを設定する方法
  • 追跡(at-risk)期間の開始と終了、計画された打ち切り方法、および予測される追跡期間中の欠損(影響を受けやすい患者の減少を含む)

D. データソース

 治験依頼者は、提案されたデータソースが具体的な仮説や研究課題に対応するために適切であることを示すべきである。非介入研究で使用されるデータソースは研究以外の目的で作成されることが多いため、治験依頼者はそのようなデータソースの潜在的な限界を理解し、その限界に対処できるか、あるいは別のデータソースを追求すべきかを判断することが重要である。各プロトコールまたは付属文書は、以下に列挙する各要素を簡潔に記述すべきである:

  • 提案されたデータソースの説明(データ生成者のデータ収集方法を含む)
  • データソースを選択した理由
  • 関心のある薬剤-アウトカムの関係性とデータとの関連性
  • 関連する交絡因子に関する情報の適切性
  • データの信頼性に関する入手可能な情報(データソースからの収集方法を含む)
  • 様々なデータソースからのデータを共有するための標準的な構造を提供するために用いられる一般的なデータモデルの説明と、特定のモデルを選択した根拠
  • 主要なデータ要素に関する評価のタイミングおよびこれらの主要なデータ要素の完全性に関する入手可能な情報
  • 主要変数の運用上の定義に基づき、提案されているコーディングがいかに適切であるかの説明
  • 対象患者集団に対するデータの適切性
  • 抽出されたデータ生成者に対して実施される品質保証活動
  • 該当する場合、他のデータソースとの既存のリンクまたはリンクの可能性(例えば、EHRと請求データベースのデータを統合する、アウトカムを確認するためにRWDソースと死亡率データベースをリンクする)
  • 該当する場合、追加データ収集の計画

E. 分析アプローチ

 事前に規定された解析計画書は、具体的な調査目的に対応し、主要解析とあらゆる副次的解析の詳細を記載するべきである。計画には、以下に示す各要素に関する情報を含める:

  • 実施可能性の評価(サンプルサイズの計算と予想される運用特性(例えば、統計的検出力)を含む)
  • 治療効果を評価するために使用される統計的手法または方法(推定値の特定(例:中間事象の取り扱いや打ち切りのルール)を含む)
  • 未測定の交絡の評価を含む、潜在的な交絡因子を考慮するための具体的なアプローチ
  • 因果経路における中間変数の過剰調整の可能性の評価
  • 該当する場合、サブグループ解析のアプローチとその根拠
  • 比較群間でアウトカムの検出が不均等になる可能性に対処するためのアプローチ(すなわち、サーベイランスの差または誤分類の差)
  • 曝露を促すアウトカムの早期発生の可能性を評価するためのアプローチ(すなわち、逆因果)

タイトルとURLをコピーしました