【ICH】RWD/RWEに関する国際的な調和を目指したリフレクション・ペーパーの公表

規制
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 2023年6月に医薬品規制調和国際会議(ICH)は、「International Harmonisation of Real-World Evidence Terminology and Convergence of General Principles Regarding Planning and Reporting of Studies Using Real-World Data, with a Focus on Effectiveness of Medicines」(医薬品の有用性に焦点を当てた、リアルワールドエビデンスの用語の国際的調和と、リアルワールドデータを用いた研究計画と報告に関する一般原則の収斂)というリフレクション・ペーパーを公表しました。

 このリフレクション・ペーパーは、新しいICHガイドラインを開発する機会を提示するものであり、より広範な意見を求めるために公開されています。

 今回公表されたリフレクション・ペーパーに対して寄せられた意見は、2024年6月に採択される予定の最終版のReflection Paperに反映されるよう検討されるとのことです。

 今回はこのリフレクション・ペーパーを見ていきます。

リフレクション・ペーパーのタイトルにも出てくる「convergence」という単語は、「統合」とか「収束」といった意味ですが、ここでは「収斂」で揃えています。

リフレクション・ペーパーの内容

はじめに

 医薬品の開発とライフサイクルのさまざまなステージにおける評価を支援するリアルワールドデータ(RWD)とリアルワールドエビデンス(RWE)の役割は進化している[Framework for FDA, United States Real-World Evidence Program 2018; Optimizing the Use of Real World Evidence to Inform Regulatory Decision-Making, Health Canada, Canada’s 2019; ENCePP Guide on Methodological Standards in Pharmacoepidemiology, EMA 2022]。

 2022年7月、薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)は、規制上の意思決定におけるRWEの使用を可能にする活動に関する国際的な連携を強化することへの強い支持を表明した[ICMRA, 2022]。この声明は、RWD/RWEの用語や形式が標準化されていないこと、RWD情報源間のデータ品質が不均質であること、疾患の種類や医薬品、規制の状況に応じて様々な試験デザインが用いられていることなどに起因する現在のギャップを解決するために、世界中の規制当局が関与することを強調している。このリフレクション・ペーパーは、ICH がこれらの課題のいくつかに取り組むための戦略的アプロー チの概要を示したものである。その目的は、規制当局への申請とタイムリーな規制当局の意思決定へのRWEの収斂をさらに可能にすることである。

取り組むべき主な技術的課題

 従来の無作為化臨床試験(RCT)は、承認前の安全性と有用性に関するエビデンスを得るための基本であることを認識しつつ、適切な状況下では、他のアプローチにより規制当局の意思決定に適したエビデンスを得ることが可能である。例えば、RWEはRWDを用いてポイントオブケアRCTのエンドポイントを確認したり、外部対照試験(ヒストリカルコントロール試験を含む)の比較群として機能させることで生成することができる[Framework for FDA, United States’ Real- World Evidence Program (2018)]。RWDは非介入試験でも使用される[FDA Considerations for the Use of Real-World Data and Real-World Evidence To Support Regulatory Decision-Making for Drug and Biological Products (2021)]。例えば、日常診療における承認医薬品の利用状況を分析したり、医薬品の(長期)市販後の安全性と有用性に関する規制当局の決定を支援するエビデンスを作成したりする[Jonker et al.]。RWDは、現在の治療パターン、併存疾患、疾患の予後をよりよく理解するために用いることができる[Dagenais et al.]。

 とはいえ、RWDの種類(例:電子ヘルス記録、登録データ、請求データ、縦断的薬剤処方、調剤その他の薬剤利用データ、患者生成データ)、医療環境(例:一次/二次/三次医療、自己治療可能な疾患)、データソースの特徴(例:目的、対象集団、データ要素、コーディング用語)、データの質とデータの妥当性のレベル、国や地域によって異なる法律や規制によって特徴付けられたデータの共有とアクセスに関する様々なガバナンスモデルなど、いくつかの課題が存在する[Bakker et al., 2022; Morton et al., 2016]。RWDが、規制当局への申請をサポートする適切なエビデンスを生成するのに適しているかどうかは、現在のところ、ケースバイケースの分析が必要であり、その分析は、前述の要因に関連する、またリサーチクエスチョンに依存する様々な基準によって行われる可能性がある。

 現在、RWDとRWEの国際的に統一された定義はない。

  • The Framework for FDA, United States Real-World Evidence Program (2018)では、RWDを「様々な情報源から日常的に収集される患者の健康状態及び/又は医療の提供に関するデータ」と定義し、RWEを「RWDの分析から得られた医薬品の使用法および潜在的なベネフィットまたはリスクに関する臨床エビデンス」と定義している。RWEは、大規模でシンプルな試験を含む無作為化試験、プラグマティック試験、観察研究(前向き、後ろ向き)を含むが、これらに限定されない様々な研究デザインや分析によって生成される。
  • EU主導の出版物にてRWDは、「伝統的な臨床試験以外の様々な情報源から患者のヘルス状態またはヘルスケアの提供に関連する日常的に収集されたデータ」と定義され、RWEは「RWDの分析から得られた情報」と定義されている[Cave et al.,2019]。

 これらの定義(及び学会や他の規制当局等による他の定義)は類似しているが、それにもかかわらず、RWDとRWEという用語は一貫性がなく、互換的に使用されている[Concato et al., 2020; Concato & Corrigan-Curay, 2022; ENCePP, 2022]。

 最近発表された研究では、医薬品の承認におけるRWD/RWEの使用頻度や、意思決定にどの程度使用されているかを測定することが試みられている[Flynn et al.]。定義の解釈が様々であること、RWDの情報源を記述し特徴付ける方法が多様であること、そしてこれらの研究で使用された方法論が多岐にわたっていることから、RWD/RWEを含む医薬品の申請数の推定は異なったものとなっている。RWEを含む製造販売承認はかなりの割合で増加しているが、このような不一致は、RWD/RWEとみなされるものの受容レベルが法域によって異なることが起因している可能性がある。

 現在RWDやRWEと呼ばれているものが、医薬品のライフサイクル全般にわたる安全性モニタリングや疾病疫学に寄与していることは以前から認識されていたが、有用性を証明するための利用はまだ始まったばかりである。なぜあるケースではそのような情報が適切とみなされなかったのか、また他のケースではどのように承認に貢献したのか、規制当局の意思決定に対するRWEの実際の貢献について詳細な分析するために、さらなる作業が必要である。この作業は、RWEの提出に関する医薬品開発者に対する既存の推奨事項(RWD/RWEに関する規制当局のガイダンスを含む付属文書、および以下の出版物[Simpson et al., 2022 (part 4); Kent et al., 2021; Griesinger et al., 2022; Simpson et al., 2022 (part 8); Jaksa et al., 2021; Angelis et al., 2018]を参照)を補完するのにも役立つであろう。

 各国・地域の法律や規制は、RWD/RWEに関連する用語の収斂・調和やガイダンスの収斂に困難をもたらす可能性がある。一方、用語やRWD/RWEのあり方について国際レベルで共通理解を得ることは、新薬や既存薬に関する知識のギャップを減らし、革新的な医薬品へのアクセスを促進することに寄与するだろう。

目的と期待される効果

 本リフレクション・ペーパーの目的は以下の通りである:

  • RWDとRWEの用語の統一、医薬品のライフサイクルを通じて規制当局に提出されるプロトコールと試験結果報告書のフォーマット、プロトコールと報告書の登録促進についてICHに働きかけること
  • 規制目的におけるRWDとRWEの評価について情報を提供すること

 この作業による最終的なメリットとして、医薬品のベネフィットとリスクの意思決定をサポートするエビデンス集に実質的に貢献する、より質の高いRWEになることが期待される。

 以下の段階的な調和アプローチを提案し、作業開始前に範囲と焦点を再評価する:

トピック目的成果物予定期間
1.RWD/RWEの用語、メタデータ、評価の原則              ・RWD/RWEの種類と範囲に関する共通理解を促進
・RWD の発見可能性、特定可能性、記述可能性を導く
・規制目的でのRWD/RWEの評価に関する情報提供  
・明確な範囲、潜在的なRWD情報源の幅、および粒度のあるRWDおよびRWEの共通の運用上の定義(例: RCTおよび非介入研究に関連するもの)
・コアリストとメタデータの使用 – RWD/RWE評価の一般原則       
2023年12月または2024年12月に新しいICHトピック提案を提出
2.RWD/RWEのプロトコールと報告書のフォーマット、試験の透明性・規制当局に提出するRWD/RWEのプロトコールおよび試験結果報告書のフォーマットに関する共通原則の合意
・一般に利用可能なレジストリへの試験計画書及び試験報告書の登録を奨励することによる透明性の向上   
・プロトコールと報告書の構成と内容に関する原則(医薬品開発者向け)
・試験計画書/試験結果の登録に関する推奨される「ベストプラクティス 」
最初のガイドラインがICH手順のステップ4に達した後に作業を開始

 このリフレクション・ペーパーは、規制上のRWEガイダンスの調和に向けた漸進的なアプロ ーチの初期段階を示すものである。以下のトピックは、ステークホルダーのフィードバックに基づき、後続のICHガイドラインの優先事項と考えられる:

  • データ品質のベストプラクティス
  • RWD のデータ標準
  • 試験デザインとデータ解析の適切な適用

重要な考慮事項

ステークホルダーと協議

 医薬品規制におけるRWD/RWEの使用の複雑さと影響には多くの課題があり、すべての関係者の関与の必要性が認識されている。本リフレクション・ペーパーがICHにより承認された場合、ICH E6(R3)、ICH E8、ICH E17などの他のICHガイドラインからの学びに基づき、全ての関係者に確実に情報を提供し、上記の様々な重点分野の調和に取り組む際に考慮すべき技術的及び運用的な側面について意見を提出する機会を提供するため、公開協議が提案される。このリフレクション・ペーパーに関する提案された国際的な公開協議の後、ガイドラインの作業が進むにつれて、コンセプト・ペーパーと事業計画には、公開協議と参加を拡大するための戦略が盛り込まれるべきである。

ICHハーモナイゼーションの利点

 本提案は、ライフサイクルのあらゆるステージ、すなわち開発/承認前から市販後モニタリングに至るまで、あらゆる種類の医薬品に利益をもたらすことを目的としている。ICHガイダンスは、医薬品規制当局、医薬品開発者/製薬企業、患者支援団体、医薬品開発業務受託機関、アカデミア、その他医薬品に関するエビデンスを創出するためにRWDを利用するステークホルダーの期待に沿うことにより、多くのステークホルダーのリソースの効率性を高めることができる。

 医薬品の承認申請や意思決定にRWEを、より調和のとれた形で収斂できる規制システムの実現を支援することで、本提案は、革新的な治療法の開発に関するタイムリーな意思決定を支援し、アンメット・メディカル・ニーズへの対応を支援し、医薬品の安全かつ効果的な使用を支援することができる。

既存および今後のガイドラインとの接続(附属書参照)

 欧州、米国、カナダをはじめ世界の様々な地域で、最終的には患者のための医薬品の開発と利用を導く規制上のユースケースのスペクトル全体でRWEを評価し、使用を可能にするためのイニシアチブがいくつか開始されている。2018年12月、米国FDAは、RWDとRWEを使用する際の現在の課題に対処するためのRWEフレームワークを発表しました。これに続き、2021年には一連のRWD/RWEドラフトガイダンス、2022年にはRWD/RWEを活用した文書提出に関する最終ガイダンス、2023年には外部対照試験に関するドラフトガイダンスが発表された。カナダ保健省はまた、2019年4月に初めて公表された保健製品・食品局通知に記載されているように、規制上の意思決定に情報を提供するためのRWEの使用を最適化するために取り組んでいる。2020年、HMA/EMAビッグデータ・タスクフォースは、DARWIN-EUに関連するヒト医薬品に関連する10の優先推奨事項を発表した。これには、ビッグデータとRWEに関連する標準とガイドラインに関するパートナーとの収束を可能にする欧州医薬品規制ネットワークデータ標準化戦略の策定が含まれる。これらの構想はすべて、提案されている新しいICHガイドラインの開発を支援するものである。

 他のICHガイドライン、例えばE6(R3)とその附属書II、ICH M14、そして現在開発中のICH M11との相乗効果と補完性が予見される。ICHガイドラインM14「医薬品の安全性評価にリアルワールドデータを利用する薬剤疫学試験の計画・ 計画に関する一般原則」は、RWDを利用した安全性試験の計画・計画に関するガイダンスとベストプラクティスの収斂に焦点を当てたものである。ICHガイドラインM11「臨床電子構造化調和プロトコール(CeSHarP)」は、プロトコール設計の一般原則と、ICH M11「臨床電子構造化調和プロトコールテンプレート」と「技術仕様書」という、ICHの全地域の規制当局に受け入れられる個別の関連文書を作成するためのアプローチを網羅している。M11ガイドラインの適用範囲は臨床試験のプロトコールのみである。提案されているガイドライン2には、プロトコールに加え、試験報告書の構造の収斂が含まれている。

 重複を最小限にし、既存のプロジェクトから得られた知識を最大限に活用し、教訓を積み重ねていく努力が必要である。

 このイニシアティブを実施するためには、規制当局や医薬品開発企業内の関連する専門知識(例えば、薬剤疫学、生物統計学、規制科学)を活用する必要があり、また、開発中のガイドラインの成熟のために十分な時間を確保する必要があることを認識し、段階的アプローチによる長期計画を提案する。この戦略により、RWDとRWEに関連する用語の調和とベストプラクティスを効果的に進めることができ、同時に新ガイドラインと既存ガイドラインの適用範囲の補完性を確保することができる。

附属書-RWD/RWEに関する規制上の取り組みとガイダンス

国・地域規制への取り組み・ガイダンスリンク
EC, Europe (EMA-EC)Joint HMA/EMA Big Data Initiative, including:
・Darwin EUData quality framework for EU medicines regulation
・Metadata list describing real-world data sources and studies
・Good practice guide for the use of the Metadata Catalogue of Real-World Data Sources
・Data standardization strategy
LINK
Other Guidances:
・CHMP guideline on registry-based studies
・ENCePP Code of Conduct
・ENCePP Guide on Methodological Standards in Pharmacoepidemiology
・Good pharmacovigilance practices (GVP) Module VIII of post-authorisation safety studies
・Scientific guidance on post-authorisation efficacy studies
LINK LINK LINK LINK
FDA, United StatesFramework for FDA, United States’ Real-World Evidence Program (2018) Individual Guidances:
・Assessing Electronic Health Records and Medical Claims Data To Support Regulatory Decision-Making for Drug and Biological Products
・Assessing Registries to Support Regulatory Decision-Making for Drug and Biological Products
・Considerations for the Use of Real-World Data and Real-World Evidence to Support Regulatory Decision-Making for Drug and Biological Products
・Data Standards for Drug and Biological Product Submissions Containing Real-World Data
・Submitting Documents Utilizing Real-World Data and Real-World Evidence to FDA for Drugs and Biologics
・Use of Electronic Health Records in Clinical Investigations
・Use of Real-World Evidence to Support Regulatory Decision-Making for Medical Devices
・Considerations for the Design and Conduct of Externally Controlled Trials for Drug and Biological Products
LINK
Health Canada, CanadaOptimizing the Use of Real World Evidence to Inform Regulatory Decision-MakingLINK
Elements of real world data/evidence quality throughout the prescription drug product life cycleLINK
DRAFT CADTH Real-World Evidence Reporting GuidanceLINK
MHRA, UKGuidance on the use of real-world data in clinical studies to support regulatory decisionsLINK
Guideline on randomised controlled trials using real-world data to support regulatory decisionsLINK
SFDA, Saudi ArabiaReal-world data in Saudi Arabia: Current situation and challenges for regulatory decision-makingLINK
Swissmedic, SwitzerlandSwissmedic, Switzerland position paper on the use of real world evidenceLINK
HSA, SingaporeDigital Health – UNDERSTANDING DIGITAL HEALTH PRODUCTS AND THE REGULATIONSLINK
NMPA, ChinaGuidance for Real-World Data Used to Generate Real-World Evidences
Guidance on the Use of Real-World Evidence to Support Drug Development and Regulatory Decisions
Guidance on Communication with Regulatory Agency on Real- World Studies to Support Product Registration
Guidance on the Design and Protocol Development of Real-World Studies
LINK
DKMADanish Health data and registersLINK
MHLW/PMDA, JapanWorking group to deal with regulatory issues related to RWD:
・Basic Principles on Utilization of Registry for Applications
・Basic principles for utilization of medical information databases in post-marketing pharmacovigilance
・Points to consider for Ensuring the Reliability in Utilization of Registry Data for Applications
Guidelines for the Conduct of Pharmacoepidemiological Studies in Drug Safety Assessment with Medical Information Databases
LINK
MFDS, Republic of KoreaGuideline on the use of Medical Information Database (Real World Data) in pharmacoepidemiologic studyLINK
WorldwideICH guidelines:
・ICH M14 “General principles on planning and designing pharmacoepidemiological studies that utilize real-world data for safety assessment of a medicine”
・ICH M11 “Clinical electronic Structured Harmonised Protocol (CeSHarP)
・ICH E6(R3) “Good Clinical Practice (GCP)” and Annex II on the use of RWD
・ICH E8 “General Considerations for Clinical Studies
・ICH E9 (R1) (addendum on estimands) “Statistical Principles for Clinical Trials
・ICH E10 “Choice of Control Group and Related Issues in Clinical Trials
・ICH E11A “Paediatric Extrapolation”  

ISPE/ISPOR initiatives (non-exhaustive list):
・HARPER (https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pds.5507)
・EQUATOR (https://www.equator-network.org/)
・ISPE guidelines for good pharmacoepidemiology practices (https://www.pharmacoepi.org/resources/policies/guidelines-08027/)
・CIOMS Working Group XIII – Real World Data and Real World Evidence In Regulatory Decision Making
ICH  









CIOMS

参考文献

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