EHDS:医学会、患者団体、研究団体、産業界等32団体からのオプトアウトに関する共同声明

EHDS
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 2023年6月6日に、ヨーロッパの医学会、患者団体、研究団体、データ連携団体、産業団体など32団体が共同で、EHDS(European Health Data Space:欧州ヘルスデータスペース)におけるオプトアウトのメカニズム(仕組み)に関する勧告を含む共同声明を公表しました。

 要約は以下のリンク先になりますが、「結論的に何を言いたい声明か?」と言うと、一義的には「EHDSにおける二次利用においてオプトアウトは不要である」という意見表明と、もしオプトアウト手続きが仕組みとして組み込まれるのであれば、考慮されなければならないと考える「6つの事項」を勧告しています。

Joint Statement: health organisations define EHDS’ opt-out required for life-saving research - DIGITALEUROPE
Representing the digital technology industry in Europe

 実際の共同声明はこちらになります。

Enabling effective secondary use of health data in Europe: specific recommendations for a potential optout mechanism for the EHDS

 それでは、この勧告の内容を以下で見ていくことにします。

前文

 2022年10月、欧州のステークホルダーの大きなグループが力を合わせ、欧州委員会の欧州ヘルスデータスペース(EHDS)に関する提案を歓迎し、共通の勧告を強調した。

 私たちは、ヘルスデータが貴重で再生可能な資源であり、臨床ケアの意思決定に力を与え、命を救うイノベーションを実現し、21世紀の保健システムを強化することができるという見解を共有している。欧州議会と欧州理事会における現在の政治的議論を踏まえ、ステークホルダーは現在、将来のEHDSにおけるオプトアウト・メカニズムの可能性について、自らのビジョンと6つの具体的な勧告を公に共有している。

上記の「2022年10月に公表した共通の勧告」とは以下のようなものでした。

  1. EHDSの成功を保証するためには、プロセスの初期段階から幅広い利害関係者が強く関与すること
  2. EHDSは、関連するすべての欧州の水平法および分野別法と整合性がとれていること
  3. EU全域で規則の解釈と実装で整合性がとれていること
  4. ヘルスデータの二次利用の承認は、欧州全体で一貫性があり、調和がとれていること
  5. EHRシステムの範囲は、規則の中で明確に定義されていること
  6. EHDSの実装を成功させるために必要で十分な資金が提供されること
  7. 継続性を持たせ、既存の専門性を生かすため、既存のヘルスデータインフラを活用すること

EHDS下における二次利用のためのヘルスデータの共有について

  • 現在、政策決定プロセスにおける議論では、市民が自分のデータを二次利用目的から外すためのオプトアウト・メカニズムの提案がなされている。
  • 欧州委員会のEHDS提案では、HealthData@EU(二次利用)の同意メカニズムについて、国内法に言及する以上の規定はない(Art. 33(5))。このアプローチは、以下の理由で正当化されている。
    • (a) 二次利用のためのデータは匿名化または仮名化されている
    • (b) 許可された利用(Art.34)および禁止された利用(Art.35)のリスト、ガバナンスと実用的なメカニズムに関するルールなど、悪用から保護するための強いメカニズムが存在する
  • 我々は、2022年5月の欧州委員会の当初の立法案で取られたアプローチを支持する。それは、個人データの保護と、患者や市民に具体的な利益をもたらす研究やイノベーションへのデータ利用を可能にすることの間で、賢明なバランスを取っているからである。
  • 匿名化されたデータでは研究目的が達成できない場合、欧州委員会のEHDS提案では、その正当性が認められ、適切な保護措置が適用されるのであれば、仮名化(個人)データ使用の可能性を想定している。仮名化データの共有に関しては、一般データ保護規則(GDPR)がEU全体の法的ガバナンスの枠組みを定めている。しかし、GDPRは、EU加盟国が医療や研究に関して適用除外できる大きな余地を残している。このような実装する際のばらつきが、仮名化データの使用に適していると考えられる根拠や、どのような保護措置が適切かといった、EU全体のアプローチの現在の「パッチワーク」につながっている。このように、EU全域でヘルスデータの研究利用について調和がとれていないことが、研究用データの再利用を阻む要因となっている。
  • EHDS規制は、すべての加盟国で一貫して適用できる許可、手続き、保護措置の調和されたアプローチを通じて、EHDSの仮名化データへのアクセスに関する欧州の整合性を提供する機会をもたらす。
  • 現在、EU加盟国における電子カルテでのヘルスデータの収集と保存は、各国の規制に従って行われている。EHDSの成功には、複数の完全なデータセットが含まれ、そのデータが欧州市民とその人口統計学的、民族的、社会経済的背景を真に代表するものであることが基本である。どのような形であれ、オプトインやオプトアウトの仕組みは、EHDSの設立当初からデータのバイアスが発生し、二次利用研究目的での主要な価値が損なわれるという現実的なリスクが発生することになる。なぜなら、a)民族や貧困層を含む特定の集団を加盟国のデータに含めることが複雑であること、b)多くの健康な市民が自分の情報を積極的に提供することにあまり関心がないこと、について多くのエビデンスがあるため、このリスクはかなり大きいと考えている。このようなリスクの結果、将来的にこれらのグループからのデータがEHDSに適切に反映されない可能性がある。このような理由から、我々はオプトアウトを盛り込まないという欧州委員会の当初の提案を支持する。しかし、最終的に将来のEHDS規則でオプトアウトが提案された場合、その潜在的な影響は非常に根本的なものであるため、その影響を理解し実装するための情報として、この特定のメカニズムに関する完全な影響評価をできるだけ早く実施すべきと考える。

 オプトインやオプトアウトの手続きを組み込むことは、その制度設計において「選択バイアス」が入ることを認めることになりますが、それでは欧州の真の状態を把握することができないことを危惧しているようですね。

 しかし仮にでも「オプトアウトの仕組みを組み込む」という決定に至った場合に向けて、次の6つについて反映することを勧告しています。

効果的なオプトアウトメカニズムへの勧告

  • EHDSに二次利用のための欧州のオプトアウトメカニズムを含む提案が交渉で前進した場合、我々はオプトアウトメカニズムが以下のようになるべきだと考える
    • EU加盟国のすべてのヘルスデータ・アクセス機関を通じて申請でき、国による適用除外の範囲を限定し、技術仕様が一致するようにする

    • 医療・介護の専門家や他のデータ保有者への影響を考慮すること。EHDSは、2022年の世界保健機関ヨーロッパの報告書で述べられているような医療・介護従事者を脅かす「時限爆弾」に寄与することはできない。オプトアウトの仕組みが追求される場合、その申請は、第一線の医療従事者に課される追加的な責任やタスクという点で、該当する場合、できるだけ軽いタッチであることが重要である。オプトアウトの仕組みは、医療・介護システムで実装するために重要なインフラを整備する必要があり、患者やより広範な人々にオプトアウトを説明し伝えることができる信頼できる専門家に投資する必要がある

    • オプトアウトは、二次的な目的のための適法かつ倫理的なデータ共有を制限することなく、EU全域で実装することが可能である。オプトアウトがEU加盟27カ国すべてで均等かつ一貫して実施されるまでは、特に遡及的なデータについては、既存のセーフガードを認識する必要がある

    • 定期的に更新されるHealthData@EUデータガバナンスフレームワークの一部として、EU加盟国全体での一般的な実装と、正義と公平性を確保しバイアスを避けるために特定の集団の間を含むオプトアウトの利用に関して、定期的にモニタリングされる。この日常的なモニタリングは、例えば、エビデンスに基づく公衆衛生政策、医療システム計画、およびデジタルヘルスツールの開発時に、すべての人口動態を確実に取り込み、考慮するために重要である

    • レジストリや臨床試験データなど、オプトアウトによって不相応な労力が生じたり、研究が不可能になったり、研究の目的が著しく損なわれるようなデータのカテゴリーについては、限定的ではあるが、明確に定義された、一貫した、透明性のある範囲を設定することで、オプトアウトが不可能になるようにすべきである
    • オプトアウトについて、それが自分にとって、また社会にとってどのような意味を持つのか、どのような場合に適用されないのか、どのようにすればオプトアウトが可能になるのか、市民が十分に理解できるように、必要な投資、インフラ、予算を確保する

二つ目の勧告にある「時限爆弾」とは、

Health and care workforce in Europe: time to act
Publicaciones de la Organización Mundial de la Salud

の中で出てくる「労働力の高齢化、メンタルヘルス支援の貧弱さ、保健分野への若者の誘致と定着の課題などにより、欧州の医療制度を脅かす時限爆弾」のことを意味しています。

上記勧告では、EHDSが実装されても、その「時限爆弾」を直接的に解決するものにはならないことを説明するとともに、EHDS実装時には医療現場への負荷を最小限にする必要性が示されています(時限爆弾を早めないように)。


 以上、EHDSに関する、医学会、患者団体、研究団体、産業界等32団体からのオプトアウトに関する共同声明でした。

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