【FDAガイダンス】リアルワールドデータ:医薬品・生物学的製剤における規制上の決定をサポートをするためのレジストリの評価

医薬関係
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 FDAは、2023年12月22日に「Real-World Data: Assessing Registries To Support Regulatory Decision-Making for Drug and Biological Products」(医薬品・生物学的製剤における規制上の決定をサポートをするためのレジストリの評価)というガイダンスを公表しました。

Real-World Data: Assessing Registries To Support Regulatory Decision-Making for Drug and Biological Products; Guidance for Industry; Availability
The Food and Drug Administration (FDA or Agency) is announcing the availability of a final guidance for industry entitled ``Real-World Data: Assessing...

 このガイダンスは、The 21st Century Cures Actで示された医薬品開発におけるリアルワールドデータ(RWD)やリアルワールドエビデンス(RWE)の利活用を促すことを目的に、レジストリのデータを規制上の決定の場面で用いたい場合に、そのレジストリの運営やレジストリからのデータの管理などについて、考慮すべき事項について説明しています。

 ここでは、このガイドラインの中身について見ていきます。


リアルワールドデータ:医薬品・生物学的製剤における規制上の決定をサポートをするためのレジストリの評価

Ⅰ. はじめに

 2016年12月13日に成立したThe 21st Century Cures Act(Cures Act)は、医薬品開発を加速させ、イノベーションと進歩をより迅速に、かつ、効率的に、それを必要とする患者に届けることを意図したものである。他の条項の中で、Cures ActはFederal Food, Drug, and Cosmetic Act (FD&C Act)にセクション505Fを追加した。FDAは、FD&C法第505条(c)に基づき既に承認された医薬品の新適応症の承認をサポートするため、あるいは承認後の試験要件をサポートまたは満たすために、RWEを使用する可能性を評価するリアルワールドエビデンス(RWE)プログラムのフレームワークを作成した。本ガイダンスは、本プログラムの文脈において、医薬品の有用性または安全性に関する規制当局の決定を支援するために、新規レジストリのデザインあるいは既存レジストリの使用を提案する治験依頼者に対する考慮事項を提供するものである。本ガイダンスは、試験デザインの選択やレジストリのデータ解析に使用する統計手法に関する推奨事項を提供するものではない。

 FDAは、RWEプログラムの一環として、またFD&C法セクション505Fに基づき、規制上の決定におけるRWEの使用に関するガイダンスを発行するよう義務付けられているため、このガイダンスを発行する。FDAはリアルワールドデータ(RWD)とRWEを以下のように定義している:

  • RWDとは、様々なデータソースから日常的に収集される患者の健康状態やヘルスケアの提供に関するデータである
  • RWEとは、RWDの分析から得られた医薬品の使用や潜在的なベネフィット・リスクに関する臨床的エビデンスのことである

 本ガイダンスで扱うトピックは以下の通りである:

  • 関連性と信頼性の高いデータの収集をサポートするレジストリの特性に焦点を当てた、規制当局の決定におけるレジストリの使用適合性(fitness-for-use)に関する考察
  • 医事請求、電子カルテ(EHR)、デジタルヘルス技術、または他のレジストリからのデータを補完的な情報として、レジストリを他のデータソースとリンクさせる場合の考慮事項
  • レジストリのデータを含む申請に対するFDAによるレビューをサポートするための考慮事項

 レジストリのデータが規制当局の決定に使用できるかどうかは、部分的には、関連性があり信頼できるデータの収集をサポートする属性(本ガイダンスに記載)に依存する。

 一般的に、FDAのガイダンス文書は法的強制力のある責任を定めるものではない。その代わり、ガイダンスはトピックに関する当局の現在の考え方を記述したものであり、特定の規制または法的要件が引用されていない限り、推奨事項としてのみ見なされるべきである。当局のガイダンスでshouldという言葉が使われているのは、何かが提案または推奨事項であることを意味するが、必須事項ではない。

II. 背景

 本ガイダンスの目的上、レジストリとは、特定の疾患、状態、または薬剤曝露によって定義される集団について、標準化されたフォーマットで臨床データおよびその他のデータを収集する組織的なシステムと定義される。レジストリの構築には、事前に定義された集団を登録し、その集団の各患者について事前に指定された健康関連データ(患者レベルのデータ)を収集することが含まれる。この集団に関するデータは、レジストリに直接入力することもあれば(例:臨床医または患者からの報告)、レジストリ参加者を特徴付ける他のデータソースからデータを収集することもある。このような外部データソースとしては、医事請求、検査会社またはバイタル統計データベース、EHR、または医療機器からの出力データなどがあるが、これらに限定されるものではない。

 レジストリは、収集されるデータの範囲と詳細さ、およびデータの管理方法に関して、複雑さに幅がある。例えば、特定のヘルスケア機関またはヘルスケアシステムにおけるケアの提供に関する品質保証が目的で使用されるレジストリは、ケアの提供に関連する限定的なデータを収集する傾向がある。特定の研究課題に取り組むために設計されたレジストリは、患者の臨床状態、受けた治療、およびその後の臨床的イベントを特徴付ける要素について、定義された集団における縦断的データを体系的に収集する傾向がある。レジストリデータの利用方法を検討する際には、収集されたデータとデータ収集・マネジメントの標準作業手順が関連してくる。

 レジストリは治験依頼者の医薬品開発プログラムをサポートする可能性があり、レジストリデータは、介入研究(臨床研究)または非介入研究(観察研究)のいずれの実施においても、そのデザインの情報を提供し、実施をサポートするために利用されうる。このような利用の例としては、以下のようなものがあるが、これらに限定されるものではない:

  • 疾患の自然史を特徴づける
  • 介入試験を計画する際に、サンプルサイズ、選択基準、試験エンドポイントを決定するのに役立つ情報を提供する
  • 人口統計学的特徴、罹病期間や重症度、過去の病歴や前治療に対する反応性などの因子に基づき、介入試験(無作為化試験など)への組み入れに適した試験参加者を選択する
  • 介入試験や非介入試験の計画立案をサポートするための、臨床アウトカムに関連するバイオマーカーや臨床的特徴を特定する
  • 介入試験における臨床アウトカムやその他の臨床データを確認する
  • 介入試験の外部対照群としてレジストリのデータを含める
  • 日常診療で投与される薬剤を評価する(例:臨床試験に十分に参加されていない集団における臨床アウトカムを評価する)

III. ディスカッション

A. 規制上の決定をサポートするためのレジストリデータの利用

 レジストリのデータは、規制当局の意図(例:特定の安全性リスクを評価するため、長期的な有効性のアウトカムに関する情報を提供するため、あるいは有用性を把握するための介入試験の外部対照群として機能するため)、登録された患者集団、収集されたデータ、レジストリのデータセットがどのように作成、維持、整理され、他のデータセットとリンクされたかを含むいくつかの要因によって、規制上の文脈において様々な程度の適合性を持ちうる。

 ある目的(例:特定の疾患を有する患者の包括的な臨床情報を得る)のために収集されたレジストリのデータは、別の目的(例:これらの患者のサブセットにおける薬剤とアウトカムの関連性を検討する)のために使用するのに適している場合もあるし、適していない場合もある。治験依頼者は、FDAによる規制上の決定をサポートすることを目的にレジストリのデータを使用することを提案する場合、治験依頼者が管理または設計していないレジストリからのデータである場合を含め、レジストリの属性が関連性と信頼性のあるデータ収集をサポートすることを保証する責任がある。

 レジストリのインフラを再利用して複数の介入試験や非介入試験をサポートすることで、対象となる患者数が限られている場合などで効率化を図ることができる。既存レジストリのデータを使用を提案する治験依頼者は、レジストリに参加している患者から提供されたインフォームド・コンセントが、治験依頼者が提案するレジストリのデータの使用を許可していること、または提案する使用について患者の再同意が得られていることを確認すべきである。

 特定の研究課題に答えるためのデータを収集するために前向きにデザインされたレジストリは、同じ課題に答えるために再利用された既存のレジストリよりも利点がある。なぜなら、特定の研究課題に答えることを目的としたレジストリの開発者は、関心のある研究課題に合わせた薬物/環境曝露、アウトカム、共変量を収集するようにレジストリを設計することができるからである。

 治験依頼者は、規制当局の決定のためのエビデンスを作成するデータソースとしてレジストリを使用することの長所と限界の両方を考慮すべきである。レジストリは構造化され、事前に定義されたデータ要素を収集し、定義された患者集団とそれらに対応する疾患の経過、合併症、および医療に関する長期間の整理されたデータを提供することができることから、レジストリは他のRWDデータソースよりも利点がある可能性がある。加えて、レジストリは医事請求データセットやEHRデータセットに欠けているデータ(例:患者報告アウトカム、治療アドヒアランス、疾患の重症度指標)を系統的に収集することができる。

 レジストリは規制上の文脈で使用するには限界がある。例えば、既存のレジストリは、他のデータソースとリンケージした後でも、併存疾患に関する情報が限られるため、一つの疾患に焦点を当てている場合がある。加えて、登録された患者は、患者のリクルートやフォローアップに関連する課題により、対象集団を代表しない場合がある。例えば、レジストリの参加要件によっては、軽症の患者に比べて重症の患者の方がレジストリに登録されやすい、あるいはその逆となる可能性がある;あるいは登録された患者は、対象集団全体と比較して、セルフケアの実践、社会経済的背景、またはサポーティブケアのレベルが異なる可能性がある。これらの課題に対処しなければ、レジストリデータを用いた解析にバイアスが生じる可能性がある。

 RWDの他のデータソースと同様に、治験依頼者が死亡や入院などの臨床イベントに関する客観的データの収集を目的とする場合、レジストリは一般的に規制目的のデータソースとして適している。疼痛スコアのような主観的データもレジストリで収集することは可能であるが、そのような評価を標準化するためにはさらなる困難が伴う。さらに、客観的データと主観的データの両方について、治験依頼者は、レジストリ参加者が受けた治療について知っていることが試験結果にバイアスをもたらす可能性があるかどうかを考慮すべきである。

 FDAによる規制上の決定をサポートすることを意図した試験においてレジストリのデータを使用する前に、治験依頼者はデータの関連性と信頼性を評価することにより、データが使用に適しているかどうかを検討すべきである。本ガイダンスの目的上、関連性という用語には、主要な試験変数(曝露、アウトカム、共変量)のデータが利用可能であり、試験に十分な数の代表的な患者が含まれていることが該当し、信頼性という用語には、正確性、完全性、トレーサビリティが含まれる。

 治験依頼者は、FDAによる規制上の決定をサポートするエビデンスを提供することを目的とした試験において、特定のレジストリをRWDソースとして使用することの適切性について、FDAのしかるべき審査部門と協議すべきである。治験依頼者はまた、試験実施前にプロトコールと統計解析計画書を当局に提出すべきである。

B. レジストリデータの関連性

 既存のレジストリを規制目的に使用するかどうかを検討する場合、治験依頼者はレジストリデータの関連性を総合的に評価し、レジストリが科学的目的の評価に適切であることを確認すべきである。この評価の一環として、治験依頼者はレジストリによって収集されたデータ要素を評価すべきである。

 レジストリが収集すべき具体的なデータ要素は、治験依頼者が意図するレジストリの用途に依存する。例えば、治験依頼者がレジストリのデータを外部対照試験の外部対照群に使用する場合には、レジストリのデータ要素の最小セットは、治験依頼者が介入試験の参加者を同定するためにレジストリを使用する場合と比較して、より包括的である必要があるかもしれない。治験依頼者は、レジストリが、定義された患者集団および特定の期間について、同じフォーマットや定義を用いて、統一的にデータ要素を収集することにより、データの一貫性をサポートしていることを確認すべきである。レジストリは、収集しなくなったデータ要素、収集し始めた新しいデータ要素、そしてフォーマットや定義の経時的な変更を文書化すべきである。

 データの関連性の評価は文脈に依存する。特定の規制目的に対するレジストリの妥当性を評価する場合、治験依頼者は、レジストリ内の患者を同定し保持するために使用する方法や、それらの方法がレジストリにおける集団の代表性に及ぼす影響を考慮すべきである。特に、レジストリへの患者登録に使用される選択・除外基準により、レジストリの患者集団が治験依頼者の医薬品開発プログラムの対象集団と異なっている可能性がある。

 レジストリは、評価漏れを減らし、レジストリ参加者の追跡不能を最小化するための計画を持つべきである。例えば、レジストリは、レジストリとの連絡を維持しない、または維持することが困難な患者へのアウトリーチ計画を持つべきである(例:テキストメッセージ、電話、電子メール、移動支援の申し出)。治験依頼者は、どの患者がレジストリへの登録を継続するか、また登録が継続されない患者とどのように異なるか(例:経験した有害事象、疾患の進行、または治療場所などの要因)に影響を及ぼす可能性のある要因を考慮すべきである。治験依頼者は、データの欠損が試験結果に及ぼす潜在的な影響を理解するために、評価の欠落や追跡不能の程度と理由を考慮すべきである。

 レジストリは一般に、レジストリに登録された患者の特性、受けた治療、およびヘルスアウトカムに関する情報を収集するデータ要素を含む。このような情報には通常、一意の患者識別子、レジストリへの参加に対する患者のインフォームド・コンセントの日付、および人口統計学的因子、併存疾患、病歴、その他の情報のようなその時点での患者のベースライン特性が含まれる。

 治験依頼者は、レジストリがレジストリの使用目的に必要なデータ要素を含んでいることを確認すべきである。治験依頼者は、データ収集の完全性や適時性を含め、規制当局の決定をサポートするレジストリデータの妥当性について、FDAのしかるべき審査部門と協議すべきである。以下はレジストリに含まれる可能性のあるデータの例である:

  • 人口統計学的情報と臨床情報:
    • 生年月日、性別、性的指向、性別、人種、民族などの患者の人口統計学的因子、身長や体重などの測定値。
    • アルコール、娯楽用薬物、タバコなどの物質使用。
    • 診断日、診断検査名とその結果、診断コード、遺伝学的検査やその他の検査(可能な場合)を含む、関心のある一次診断;疾患の悪性度、重症度、疾患負担、疾患の進行における重要なマイルストーンを把握するための具体的な方法
    • 患者の併存疾患(それらの疾患の現在の状態(合併症、疾患症状など)、評価日、個々の併存疾患に対する治療法を含む。)
    • 疾患の重症度や進行を変化させると考えられる特徴に関するその他の関連情報
  • 対象疾患および併存疾患の治療に関する情報:
    • 各治療のための化学名、製品名、剤形、投与量、開始日、終了日、中止理由(該当する場合)。
    • 手術の種類と日付、手術前後の合併症(該当する場合)。
  • その他の健康関連情報:
    • 関心のある特定の臨床イベント(例:心臓発作、脳卒中、入院、死亡)および発生日
    • その他の臨床アウトカム(例:疾患の進行または再発、障害、機能状態、QOL)および発生日か評価日
    • 妊娠関連のアウトカム

C. レジストリデータの信頼性

 既存のレジストリのデータを使用すること、あるいは新たにレジストリを構築することを検討する場合、治験依頼者は、レジストリの運営、レジストリ職員の教育と訓練、リソース計画、およびレジストリのデータの質を保証するための実務を管理するプロセスと手順があることを確認すべきである。他機関が保有するレジストリからFDAにデータを提出する治験依頼者は、その機関と緊密に連携し、レジストリのデータの信頼性を裏付けるプロセスと手順が整っていることを確認すべきである。さらに治験依頼者は、規制当局の決定を支援することを目的としたレジストリのデータに関連するメタデータにアクセスできるようにすべきである。

 レジストリがその目的を達成できるようにするためのガバナンスの属性には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:

  • レジストリのデータを使用して分析を行おうとする者が利用できる、確立されたデータディクショナリ。データディクショナリは一般的に以下を含むべきである:
    • データ要素および対応する定義
    • データ要素の範囲、単位、許容値、およびフォーマット、ならびに使用される対応するデータ標準とターミノロジー
    • 各データ要素のデータの出所に関する情報
  • 以下のような、レジストリの定義されたプロセスおよび手順:
    • データの収集、整備、維持、および保存(レジストリ内のデータがそのレジストリのソースデータ(該当する場合)により検証できることを保証するためのプロセスを含む)
    • (1)レジストリデータが論理的、一貫的かつ完全に入力されていることを確認するためのクエリ(クエリ の日時および結果を含む)、(2)レジストリデータに加えられた変更を含む、無効、欠損、または一貫性のないデータなど、確認された問題を解決するために講じられた措置の文書化
    • レジストリデータが他のデータソースからのデータと組み合わされる場合を含め、レジストリデ ータを入力、修正、検索および抽出するための、あらかじめ規定されたルール
    • レジストリデータを収集するために使用される電子システムのバリデーション
  • (該当する場合)21 CFR Part 11への適合(レジストリデータの出所を証明し、データのトレーサビリティを支援するためのアクセス制御および監査証跡の維持を含む)

 治験依頼者はまた、レジストリを設計する際、または既存のレジストリからのデータの使用を検討する際、レジストリが患者の健康情報のプライバシーの保護を含め、その法域の人を対象とした保護要件に準拠していることを確認すべきである。FDAはまた、レジストリを開発する際には、レジストリに関連するデータ収集やその他の手順を検討するために、施設の審査委員会や独立した倫理委員会に相談することを推奨している。

 レジストリのデータの信頼性を評価する際にFDAが考慮する要素には、データが事前に規定されたプロトコールに従って収集されたかどうかが含まれる。FDAはまた、データ収集と解析の過程で配置されたレジストリの人員とプロセスが、エラーを最小限に抑え、試験データのインテグリティを維持するために適切であるかどうかも考慮する。治験依頼者は、データの機密性と安全性が確実に保持されるように、レジストリがプライバシーとセキュリティの管理体制を整えているかどうかを確認する必要がある。

 治験依頼者は、標準化され、一貫性があり、普遍的なデータ収集を促進するために、共通のデータ要素を使用すべきである。このようなアプローチは、レジストリのデータと他のデータソースからのデータとの比較やリンクを容易にする。レジストリが使用する標準化された用語と関連するデータ標準は、適用する医薬品の申請における試験データの提出に関するFDAの要求事項への適合を促す。

 FDAがデータの質を評価できるような追加的な方針と手順(例えば、コーディングや原資料の解釈の誤り、データ入力、クリーニング、転送、リンケージなどの問題に対処するため)を設けるべきである。

 電子的なデータベース形態のレジストリは、データの信頼性を支えるために、データマネジメント戦略を含むセーフガードを備えるべきである。データマネジメント戦略には、以下のプロセスおよび手順を含めるべきである:

  • レジストリに入力されたデータの日付、時刻、およびデータ生成者を文書化すること、データの変更に対処するための予防措置や改善措置(誤ったデータを削除することなくフラグを立て、修正されたデータを挿入することを含む)を実施すること、および以前の入力を不明瞭にすることなくデータの変更理由を記述することにより、バ ージョン管理の実装と維持を行う
  • 別のデータフォーマットやシステムから移されたデータが、移行の過程で変更されないようにする
  • 現在では古くなっているデータフォーマットや技術(例:オペレーティングシステム、ハードウェア、ソフトウェア)を使用して以前に収集されたデータをレジストリに統合するよう努める
  • 時間の経過とともに収集される臨床情報の変化を考慮する(例:進化する診断基準や治療ガイドラインにデータ要素を適合させる)
  • 使用した監査規則と方法、およびエラーを減らすために用いた軽減策を説明する
  • 監査結果に基づいて特定されたエラーの種類と、講じられた是正措置を説明する

 データの一貫性、正確性、および完全性の指標は定期的に評価されるべきであるが、その頻度はレジストリのデータの目的によって異なる(例えば、無作為化比較試験のリクルートを促進することのみを目的とする場合、介入研究または非介入研究の解析にレジストリのデータを使用する場合)。欠損データ、一貫性のないデータ、外れ値、追跡不能の程度を検出するために、定期的な記述統計分析を行うべきである。

D. レジストリを他のレジストリや他のデータシステムにリンクする場合の考慮点

 治験依頼者は、介入研究または非介入研究において、関心のある疑問に答えるために必要なすべての情報をレジストリで収集できない場合、別の情報源から補足情報を得 ることを検討することができる。例えば、治験依頼者はレジストリに登録されている患者のデータを、別のレジストリ、EHR、医事請求データベース、デジタルヘルス技術などの別のデータシステムに登録されている同じ患者のデータとリンクさせることを検討することができる。このリンケージは、レジストリに他のデータシステムからのデータを組み込むか、解析時に外部データとレジストリデータを組み合わせることによって行われる。

 レジストリに他のデータシステムからのデータを組み込む場合、治験依頼者は追加データがレジストリデータの全体的な完全性に及ぼす潜在的な影響を考慮すべきである。治験依頼者は、データの欠損を考慮し、重複データを修正し、データの不整合を解消するとともに、データを安全に転送しながら患者のプライバシーを保護する能力など、その他の潜在的な問題に対処するための方策を講じるべきである。治験依頼者は、患者レベルのリンケージの適切性と正確性(すなわち、同一患者がマッチングされていること)に対処するための計画を持つべきである。治験依頼者はまた、患者レベルのデータを他のレジストリやデータシステムにリンクしようとする場合、その法域の要件(例:各国ごとの法律)を考慮すること。

 治験依頼者はまた、リンクされるデータソースが相互運用可能であるかどうかを検討し、適切なデータ統合を確実にするために適切な情報学的戦略(例:データ要素マッピング)をサポートすべきである。治験依頼者は、(1)リンクされたデータシステムの相互運用性を示すために十分なテストが実施され、(2)レジストリへのデータ要素の自動的な電子的送信が整合的かつ反復可能な方法で機能し、(3)データが正確で一貫性があり、完全に送信されていることを確認すべきである。レジストリ内のデータがリンクされたデータソースから正確に取り出され、リンクされた変数の運用定義が一致していることを確認するために、論理的整合性や値の範囲をチェックするための事前定義ルールを用いるべきである。

 治験依頼者が、外部データソースからレジストリへのデータ転送を検証するために使用したプロセスの文書は、治験依頼者の査察時にFDAが閲覧できるようにすべきである。

 治験依頼者はまた、レジストリデータベースまたは追加データソースに対するソフトウェアの更新が、レジストリに送信されるデータの完全性、相互運用性、およびセキュリティに影響を与えないことを保証すべきである。例えば、リンクされたデータとレジストリのデータの時間的整合性のような問題が考慮されるべきである。
 追加のデータソースを使用することが適切かどうかは、治験依頼者がリンクされたデータをどのように使用する予定であるか、また、すべての患者について同様のデータを入手できるかどうかにもよる。例えば、各データソースの候補について、治験依頼者は以下を検討すべきである:

  • そのリンケージが提案された研究課題に適切である(例えば、追加するデータソースが関連する臨床的詳述や長期の追跡情報を提供している)
  • 2つ(またはそれ以上)のデータベース間の記録のリンケージを正確に行うことができる
  • リンクされたデータセットがレジストリ全体の集団の一部しか代表していない場合、リンケージによって患者集団の代表性や関連性が損なわれる可能性がある
  • レジストリや追加のデータソースにおける関心のある変数が、一貫した定義と信頼できる確認方法を持っている
  • 外部データソースからリンクされたデータが、研究目的を満たすために十分な精度、一貫性、完全性をもって収集されている
  • レジストリのデータを補完するために使用されたあらゆるデータソースが利用可能である
  • 患者データのプライバシーを保護する手順とアクセス制御が実施されている
  • 各データソースにデータを提供した患者のインフォームド・コンセントがあり、リンケージが可能である

 治験依頼者がレジストリを補完するために追加のデータソースを使用することを決定した後、治験依頼者はそれらのデータをレジストリにリンクするために使用する方法を開発し、記述すべきである。FDAはリンケージに対する特定のアプローチを推奨しているわけではない。治験依頼者はまた、リンケージによってもたらされた不正確さ(例:特定のデータ測定の過集計、患者または変数の重複)、特定された問題に対処するために講じた措置、および完全に是正できない問題に対処するために講じたアプローチを評価する計画など、リンケージ後にデータの完全性をどのように評価するかを記述すべきである。治験依頼者が、他の組織が所有するデータソースからのデータを含むレジストリのデータをFDAに提出しようとする場合、治験依頼者は他の組織と密接に協力し、データ入力、コード化、クリーニング、加工のための適切な方法が、それぞれのリンクされたデータソースに対して確実に実施されるようにすべきである。

E. 規制当局による審査における考慮事項

 FDAによる規制上の決定をサポートすることを目的とした試験のデータソースとして特定のレジストリを使用することに関心のある治験依頼者は、試験を実施する前に関連するFDAの審査部門と協議すべきである。治験依頼者は以下の点についてFDAと協議すべきである:(1)計画された選択・除外基準に基づき、対象集団を正確に定義し評価する能力;(2)どのデータ要素がレジストリから得られるか(他のデータソースと比較して)とその適切性、ならびにデータ収集の頻度と時期、(3)レジストリと他のレジストリまたは他のデータシステムとのリンクが見込まれる場合には、そのリンクのための計画された方法、(4)アウトカムを確認し検証するための計画された方法(診断要件、アウトカムの検証または判定レベルを含む)、(5)研究対象疾患の診断をバリデーションするために計画した方法。

 治験依頼者は、介入試験または非介入試験を実施する前に、プロトコールと統計解析計画書を提出し、FDAのレビューとコメントを求めるべきである。レジストリデータを使用する試験のデザイン、解析、実施のすべての必須要素は事前に定義されるべきであり、各試験要素(例:適格基準、曝露、アウトカム、共変量)について、プロトコールにその要素が選択されたデータソースからどのように確認するかを記載すべきである。

 承認申請において医薬品の有用性や 安全性を裏付けるためにレジストリデータを使用しようとする治験依頼者は、患者レベルのデータが、該当する法的および規制上の要件に従ってFDAに提供されることを保証しなければならない。レジストリデータが第三者によって所有され管理されている場合、治験依頼者は、該当する場合、関連する患者レベルデータがFDAに提供され、RWDを検証するために必要なメタデータと原資料が査察に供されることを保証すべきである。

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