【FDAガイダンス】医療機器評価に用いる患者報告アウトカム測定方法の選択、開発、改良、および適応の原則

医薬関係
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はじめに

 FDAが「Principles for Selecting, Developing, Modifying, and Adapting Patient-Reported Outcome Instruments for Use in Medical Device Evaluation(医療機器評価に用いる患者報告アウトカム測定方法の選択、開発、改良、および適応の原則)」というガイダンスを公表しました。
 これは2020年にドラフトとして公表されていたものですが、今回、正式に発出されたようです。
 FDAは医療機器の開発・評価・監視において、患者の視点を収集・分析・統合することを推奨していますが、その「自身の健康状態やその治療・管理と共存している患者の視点」は、規制上の決定に関連する形で、かつ信頼性をもって測定された場合において非常に有用であり、その手段として、患者報告アウトカム(PRO:Patient-reported outcome)の計測は、患者がどのように感じ、どのように動き、どのように生きているかを体系的に収集し、規制上および医療上の意思決定プロセスを支える有効な科学的エビデンスとすることを可能にするものであると考え、以下の3つを目的にこのガイダンスを公表しているとのことです。

  • 医療機器の評価にPRO評価法を用いる際に考慮すべき原則の記述
  • PRO測定法の目的適合性(fit-for-purpose)を確保することの重要性について提言
  • 関連性があり(relevant)、信頼性が高く(reliable)、十分に堅牢なPRO評価法が、最も負担の少ない方法で開発、改良、適応されることを保証するためのベストプラクティスの概説

 以降で拾い読みをしてみました。
 必要に応じて、原文をご確認ください。

このガイダンスは、FDAのCenter for Drug Evaluation and Research(CDER)とCBERが主導するPatient-Focused Drug Development(PFDD)のガイダンスシリーズに取って代わるものではありません

スコープ

 このガイダンスで概説されている原則は、医療機器評価の製品ライクサイクル全体におけるPRO測定法に適用されることが意図されています。
 また、このガイダンスは、最小限の負担で、関連性があり、信頼性があり、十分に頑健なPRO測定法を開発するために推奨されるベストプラクティスを概説することにより、これまでに公表している関連するガイダンス類を補完することを意図しており、PRO測定法の開発、改良、適応の方法や手順を詳細に説明するものではありません。

医療機器評価においてPRO測定法を使う際の一般的考慮事項

主要な原則

FDAは、医療機器の製品ライフサイクル全体の評価にPRO測定法を取り入れる際に、以下の原則を考慮することが重要であると考えている。

  1. PRO測定法が捕捉することを目的とした「関心のコンセプト」(COI:concept of interest)を確立し、定義する
  2. 臨床試験のプロトコール及び解析計画におけるPROの役割(例:主要評価、副次的評価、補助的な解析、有用性評価、安全性評価)を明確に示す
  3. PRO測定法がそのCOIを高い信頼性で評価できるエビデンスを示す
  4. PROに関連する結果を効果的かつ適切にラベルに記載し、医療従事者と患者の意思決定に役立てる

PRO測定法が目的に合っている(fit-for-purposeである)ことを確認することの重要性

 目的に適合したPRO測定法は、特定の使用状況(COU:specific context of use)で使用されるべきであるため、FDA目的に適合したPRO測定法を選択する際に、3つの要素を考慮すべきだと考えている。

  1. PRO測定法で測定されているコンセプトは、患者にとって意味のあるものなのか?また、関心のコンセプト(COI)の変化は患者にとって意味のあるものなのか?
  2. PRO測定法は、臨床試験のプロトコールと解析計画において、どのような役割(例:主要評価、副次的評価、補助的解析、有用性、安全性)を果たすのか?
  3. 臨床研究プロトコールと解析計画に特定されたCOIの測定をする上で、そのPRO測定法を使用することを支持するエビデンスがあるか?

 PRO測定法が特定のCOUの目的に適っているかどうかを評価する際に重要になる検討事項は、「バリデーションが取られた集団」についてである。そのバリデーションが行われた集団は、臨床研究プロトコールで意図された使用集団と一致していなければならない。臨床試験の集団とPRO測定法を開発した時の集団の類似点と相違点を評価することにより、FDAはPRO測定法が目的に適っているかどうかを判断することができる。例えば、後期高齢者の患者は、初期高齢者の患者とは異なる症状や考え方を持っている可能性がある。したがって、早期の患者で開発されたPRO測定法の項目は、疾患の後期を経験している患者には適用できないかもしれない。さらに、PRO測定法は、誤解を招く可能性のある項目や、意図した使用集団に適用できない項目を含むべきではない。

バリデーションが取られていないコンテキストでPROを使っても、その結果の解釈は一般的には困難です。

PRO測定法の負担の少ない選択、開発、改良、適応のためのベスト・プラクティス

患者にとって重要なコンセプトを測定する

 患者にとって重要なアウトカムを評価することができるPRO測定法を使うこと。
 患者の優先事項を反映したアウトカムを臨床試験プロトコールに組み込むことで、患者の意思決定プロセスに含まれる要素をFDAのベネフィット・リスク判定にシームレスに組み込むことができる。
 また、患者にとって意味のある結果を評価することが、重要度の低いPROの収集を減らすことになり、患者への不要な負担を抑えることができるかもしれない。
 さらに、患者にとって重要なアウトカムが医療機器のラベルに記載されることは、治療や管理の選択についての患者と医療従事者の間での会話にも役に立つかもしれない。

PRO測定法が患者にとって理解しやすいものであること

 リテラシーの異なる患者でも理解ができ、情報に基づいた回答ができるように、これらの要素を平易な言葉で構成することを推奨している。適切なベンチマーク(例:物事を比較・評価するための基準点)、活動、症状の表現を使用することは、患者が自分の健康状態を正確に報告できることに繋がる。
 項目に対する回答の選択肢は、項目の文言と一致している必要がある。例えば、かゆみの頻度が重要であると判断された場合、回答の選択肢は頻度を表すものにすべきである(例:なし、まれに、ときどき、しばしば、いつも)。
 英語能力の低い患者の体験を測定するために、必要に応じて異なる言語でPRO測定法の提供検討するよう推奨している。
 FDAは、英語力やヘルスリテラシーに制限のある患者を含むすべての患者からPROデータを収集することで、臨床試験の結果が意図した使用集団に一般化できることを確実にすることができると考えている。
 よく開発されたショートフォーム版のPRO測定法が存在しているなら、それを使用することも検討する。

臨床試験プロトコールおよび解析計画におけるPRO測定法の役割を明確に

 臨床試験のプロトコールと解析計画で特定された測定法の役割に基づき、FDAはPRO測定法の測定特性を裏付けるために必要なエビデンスの強さを決定する。例えば、副次的な有用性のエンドポイントを測定するために使用されるPRO測定法は、安全性のエンドポイントを記述的に評価するために使用されるPRO測定法とは異なるバリディティ(妥当性)のエビデンスを必要とする場合がある。
 COIと、PRO測定法が使用されるCOUは、臨床試験のプロトコールと解析計画で明確に記述されるべきだとFDAは考えている。そのため、COIについて、何を測定しているか、どのように測定しているか、どのように解釈しているか、結果をどのように表示で伝えるかを明確にすることを推奨している。
 同様に、FDAはCOUが医療機器の開発・評価プロセスにおけるPRO測定法の具体的な役割を説明することを推奨している。これには、PRO測定法が臨床試験でどのエンドポイントを計測するために使用されるか(例えば、安全性対有用性、主要対副次対補助)、臨床的に意味のあるPRO測定法によって測定される変化の量の推定値を定義することが含まれる。
 治験依頼者は、プロトコール及び解析計画書にPRO測定法のCOUを明記し、明確に示すべきである。例えば、コンセプトを痛みの強度とし、主要な有用性アウトカムとして「ベースラインと比較した3ヶ月後の疼痛強度スケールスコアの減少とする」といった感じで特定する。
 医療機器の申請においてPRO測定法を含む臨床試験の結果を提示する場合、治験依頼者は、PRO測定法で測定されたコンセプトがCOUに記載されたCOIと一致すること、およびPRO測定法の特定の変化が臨床的に意味のあるものであることを確認しなければならない。

既存のPRO測定法と妥当性のエビデンスの活用

 新しいPRO測定法を開発するのではなく、既存のPRO測定法の中から選択することが多い。
 既存のPRO測定法は、そのまま使用することも、改良することも、適合させることも可能であり、既存の有用性のエビデンスを活用できる。既存のPRO測定法の改良や適応は、新しいCOUにおいて負担の少ない方法になるかもしれない。FDAは、実行可能であり、そのようなアプローチがCOUに関連性と信頼性のあるPRO測定法をもたらす場合、既存のPRO測定法の改良または適応を奨励する。
 臨床試験で使用するために既存のPRO測定法に変更を加える場合は、提出書類に変更内容を明確に記載することを推奨する(例:PRO dossierまたはappendix)。また、改良したPRO測定法の使用を実証したり、その有用性を裏付ける既存の出版物やデータを記載することも有用である。改良の程度によって、妥当性を裏付ける新たなエビデンスが必要となるかもしれない。
 PRO測定法が現代の日常生活の活動を反映すべきであることを念頭に置きながら、対象となるPRO測定法の開発、使用、評価に関連する妥当性に関するエビデンスを見出すための出発点として、査読付きの文献をレビューすることを推奨する。
 歴史的に使用されてきたPRO測定法は、医学・技術の進歩により、現在の機能を適切に反映していないかもしれない。所定のCOIが適切に測定されていることを確認するために、項目の修正が必要な場合がある。

PRO測定法の妥当性を証明するための代替プラットフォームと並行開発の検討

 PRO測定法の妥当性を示すエビデンスを得るために、臨床研究の場以外の複数の情報源(電子カルテ、医事請求データ、製品または疾病レジストリ、健康モニタリング機器など)から得られるリアルワールド・エビデンスを使用することができる。リアルワールドデータ(RWD)の普及により、PRO測定法の開発がRWDに組み込まれる可能性もある。また、専門機関や患者主導のレジストリは、患者を特定し、バリディティのエビデンス生成を促進するのに役立つかもしれない。FDAは、PRO測定法のバリディティのエビデンスを得るためのこれらの代替アプローチを、より負担の少ないアプローチとして検討することをスポンサーに勧めている。
 将来の製品開発に使用するためにPRO測定法を積極的に開発または改良するスポンサーは、定量的なバリディティのエビデンスを収集し生成するために、早期のフィージビリティー、段階的臨床試験、ピボタル試験、市販後臨床試験、および/またはリアルワールドデータ・プラットフォームの使用も検討すると、効率的で費用対効果が高いかもしれない。
 そのような意図も持って臨床試験をする場合はプロトコール及び解析計画書に、PRO測定法の定量的バリディティに関するエビデンス作成の意図を前向きに明記すべきである。
 スポンサーは、極めて重要な臨床試験の中でバリディティのエビデンスが得られたとしても、そのピボタル試験、添付文書、公開サマリーにおいて、安全性および/または有用性に関する特定の記述を裏付ける目的でPRO測定法を使用できるわけではないことに留意すべきである。
 この有用性のエビデンスは、市販後の研究を含む将来の臨床研究におけるPRO測定法の使用をサポートする可能性がある。

非競争領域での他者とのコラボレーション

 FDAは、スポンサーと他の利害関係者が競争前のスペースで共同作業を行い、規制当局への申請に使用するPRO測定法を開発、改良、または適応することを奨励する。

PROの測定法が主目的であることは少ないですよね。PRO開発にコストと時間をかけなくて良いように、力を合わせる時は力を合わしましょう。通常、共同で開発した方が妥当性も高くなります。

要約

 医療機器の製品開発ライフサイクル全体を通して患者の声をさらに統合するためには、医療機器の規制評価とサーベイランスにおいて、患者にとって重要なコンセプトを考慮することが重要である。よく設計されたPRO測定法は、規制上および医療上の意思決定をサポートする科学的エビデンスとして、患者の視点を取り入れやすくする。
 FDAは、このガイダンスに記載されている推奨事項が、患者、規制当局、医療提供者にとって重要な結果を評価するために、関連性があり、信頼性が高く、十分に堅牢なデータを生成する方法で、医療機器の評価においてPRO測定法が開発、改良、適応され、使用されることを保証するのに役立つと考えている。
 このガイダンスでは、PRO測定法の開発、改良、または適応のための柔軟なアプローチを概説している。FDAは、スポンサーやその他の関係者が、他の最も負担の少ないアプローチを検討し、それらのアプローチが規制申請をサポートするために適用できるかどうか、またはどのように適用できるかを判断するために、FDAと議論することを奨励する。

まとめ

 以上、概要を見てきました。
 ベストプラクティスを端的にまとめてしまうと、

  • Fit-for-purpose(目的に適合している)
  • バリデーションが取られている
  • 患者が使いやすい
  • 安価に

 といった感じでしょうか。「当然だ」となりますね。
 現実のPROの利用は、なかなかに大変だと思いますが・・・

規制当局との相談も忘れずに!

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