- はじめに
- 1. EHDSの提案はどのようなものですか?
- 2. EHDSの恩恵を受けるのは誰ですか?
- 3. どのようなガバナンスシステムが導入されるのですか?
- 4. EHDSのメリットとコスト、資金調達は?
- 5. European Health Union(欧州保健連合)の他のイニシアチブ(がん、製薬、HERA)への影響はどのようなものが予想されますか?
- 6. 自分にとってどんなメリットがありますか?
- 7. EHDSがどのように機能するのか、具体的な例を挙げてください。
- 8. EHDS は医療従事者にどのような影響を与えるのでしょうか?
- 9. EHDS はどのようにデータプライバシーとセキュリティを保護するのですか?
- 10. 加盟国はどの程度 EHDS の準備が整っているのですか?
- 11. EHDSは、ヘルスデータを産業界と共有するのでしょうか?
はじめに
European Health Data Space(EHDS)の法案に関する提案が2022年5月3日にリリースされ、その概要については以下で紹介しておりました。
このリリースと同時にQ&Aが公表されておりました。

このQ&Aは欧州の一般市民に対してEHDSがどのように運営され、どのようなメリットがあるのかを分かりやすく説明しており、EHDSの概要を把握することもできるものとなっております。
ここでは、そのQ&Aを見ていきたいと思います。
1. EHDSの提案はどのようなものですか?
毎秒、EU全域の医師、看護師、薬剤師、研究者、保健規制当局が、命を守る仕事に不可欠な大量のヘルスケアに係わるデータを生成し、使用しています。ヘルスデータは、私たちの医療システムの血管を流れる血液です。COVID-19の大流行は、最新のヘルスデータが、十分な情報に基づいた公衆衛生対策を講じ、危機に対応するための重要な鍵であることを示しました。また、パンデミックは、デジタルツールの普及を加速させるきっかけとなりました。しかし残念ながら、デジタルヘルスとヘルスデータの可能性を最大限に引き出すことを難しくしている複雑な障害がまだ残っています。
欧州ヘルスデータスペースは、こうした障害を克服するものです。これは、患者による電子ヘルスデータの利用、および研究、イノベーション、政策立案、患者の安全、統計、または規制目的のための明確なルール、共通の基準と実践、インフラ、ガバナンスの枠組みを確立する医療分野特有のデータ共有の枠組みです。
2. EHDSの恩恵を受けるのは誰ですか?
欧州ヘルスデータスペースにより、EU全域の個人が自分のヘルスデータに関する権利を完全に行使できるようになります。人々は、データ保護に対するEUの全体的なアプローチに完全に沿って、より大きなコントロールを維持しながら、これらのデータに容易にアクセスし、共有することができるようになります。
同時に、医療専門家の仕事もより簡単で効果的になります。相互運用性の向上により、医療専門家は国境を越えて患者の病歴にアクセスできるようになるため、他のEU加盟国にある場合でも患者のデータにより治療や診断に関する意思決定の根拠を高めてくれます。
国内および国境を越えた医療従事者間のデータ交換を支援する相互運用性の強化により、医療従事者は検査の重複を回避し、患者や医療費にプラスの効果をもたらすことができます。
また、研究者にとっても、信頼できる安全な枠組みの中で、より直接的にデータにアクセスできるようになるという利点があります。研究者は、より大量で高品質なデータにアクセスすることができます。研究者は、患者のプライバシーを保証するデータアクセス機関を通じて、より効率的かつ安価な方法でデータにアクセスすることができるようになります。
規制当局や政策立案者も、政策立案や医療システムの機能向上のために、ヘルスデータに容易にアクセスできるようになります。これは、医療へのアクセスの改善、コストの削減、効率化、より強靭な医療システム、新しい研究とイノベーションにつながり、また、よりエビデンスに基づいた政策立案を可能にします。
産業界は、同じ規格と仕様の電子医療記録システムのEU全域に及ぶ市場から利益を得ることができます。電子ヘルスデータの可用性が高まれば、人々の健康状態が改善され、より良い個別化医療を提供する革新的な医薬品や医療機器の製造が促進されます。また、産業界は、人工知能技術を利用した新しい機器を開発することもできるようになります。
3. どのようなガバナンスシステムが導入されるのですか?
EHDSは、国家レベルおよびEUレベルでのガバナンスを強化します。これは、COVID-19のパンデミックの際にその価値を示した、eヘルスネットワーク内のヘルスケアにおけるデータの一次利用(患者自身のためのデータ利用)のための現在の協力関係を基礎とするものです。
EHDSはこの一次利用の範囲を拡大し、今後はヘルスデータの二次利用(研究者、政策立案者、イノベーター、産業界などによる集約されたヘルスデータの再利用)も管轄する予定です。
ヘルスデータの再利用に関するEHDSの規則は、データガバナンス法によって導入された枠組みを基礎としています。全加盟国のデジタルヘルス当局と新しいヘルスデータアクセス機関の代表者、欧州委員会、オブザーバーからなる欧州ヘルスデータスペース委員会が新たに設立される予定です。同委員会は、他のEUの機関や患者団体などの利害関係者と協力しながら、欧州委員会への助言も含め、EU全域で一貫した規則の適用に貢献することになります。
また、加盟国は、データ共有を可能にする国境を越えた2つのデジタル基盤(一つはヘルスデータの一次利用向け、もう一つはヘルスデータの二次利用向け)について、EUレベルで協力していきます。
4. EHDSのメリットとコスト、資金調達は?
EHDSは、10年間でEUに約110億ユーロの節約をもたらすと予想されています。医療におけるヘルスデータへのアクセスと交換の改善により55億ユーロ、研究、イノベーション、政策決定のためのヘルスデータの活用の改善により54億ユーロが節約されるでしょう。
EHDSを実現するためには、国レベルでさらなるデジタル化が必要です。同時に、EU域内のヘルスデータの国境を越えた利用を可能にするために、相互運用可能なEU全体のインフラを構築する必要があります。そのため、加盟国と欧州委員会の双方が、さまざまなEU基金や制度の下でEHDSを支援することになります。例えば、加盟国は、Recovery and Resilience Facility下で、デジタルヘルスへの投資のために120億ユーロの予算を組んでいます。欧州地域開発基金(European Regional Development Fund)とInvest EUは、さらなる投資の機会を提供します。
さらに、欧州委員会はEHDSを支援するために8億1,000万ユーロ以上を提供する予定です。2億8000万ユーロはEU4Healthプログラムの下で利用可能であり、残りはDigital Europe Programme、Connecting Europe Facility、Horizon Europeから資金を調達する予定です。
5. European Health Union(欧州保健連合)の他のイニシアチブ(がん、製薬、HERA)への影響はどのようなものが予想されますか?
EHDSは、強力な欧州保健連合の中心的な構成要素です。
欧州がん撲滅計画(Europe’s Beating Cancer Plan)下での活動を後押しすることになるでしょう。知識、経験、データをプールして共有することは、がん患者のための実用的なソリューションの開発に役立ちます。また、EHDSは、がん登録の革新的なアプローチを開発し、さまざまな種類のがんに関する情報をよりタイムリーかつ効率的に収集することを可能にします。これにより、EU全域のがんの状態をリアルタイムで把握することができます。
また、EHDSは、ヘルスデータがイノベーション、研究、新薬や新しい治療法、医療製品の開発に重要な貢献をすることを可能にします。その結果、欧州の医薬品戦略(Pharmaceutical Strategy for Europe)やHERAの活動を強力にサポートすることになります。
6. 自分にとってどんなメリットがありますか?
ヘルスデータスペースは、GDPRの権利とともに、あなたのヘルスデータのより良い管理を実現します。特に以下のことが可能になります。
- 自分のヘルスデータを電子的な形ですぐに無料で入手することができます。
- EU圏内および国境を越えて医療従事者とあなたのデータを共有することができます。
- 情報の追加、エラーの修正、アクセスの制限、および「どの医療専門家があなたのデータにアクセスしたか?」といった情報の取得が可能です。
- 患者サマリー、e処方箋、画像および画像レポート、検査結果、退院レポートなど、特定のカテゴリーのヘルスデータを、ヨーロッパの電子ヘルスレコード交換フォーマットで発行し、受け入れることができます。
もちろん、あなたのセキュリティとプライバシーは確保されます。
- 研究者、産業界、公共機関は、個人と社会に利益をもたらす特定の目的のためにのみ、あなたのヘルスデータにアクセスすることができます。
- ただし、アクセスできるのは個人を特定できないデータのみです。
- データは、閉域のセキュアな環境でのみアクセスおよび処理され、匿名化されたデータのみがダウンロード可能となります。
7. EHDSがどのように機能するのか、具体的な例を挙げてください。
例1:ポルトガルに住む女性が休暇でフランスに行くことになりました。残念ながら、彼女はフランスで病気になったため、現地の一般開業医に診てもらう必要があります。EHDSとMyHealth@EUのおかげで、フランスの医師は自分のコンピュータでこの患者の病歴をフランス語で見ることができます。医師は、患者の病歴に基づいて、例えば患者がアレルギーのある製品を避けながら必要な薬を処方することができます。
例2:あるヘルステック企業が、患者の検査画像から、医師による診断・治療の決定を支援する新しいAIベースの医療意思決定支援ツールを開発しています。このAIは、患者の画像を、過去に測定した大量の画像と比較します。EHDSを通じて、同社は効率的かつ安全に多数の医療画像にアクセスすることができ、市場承認を求める前にAIアルゴリズムを訓練し、その精度と有効性を最適化することができます。
例3:ある男性が、救急搬送された公立病院で撮影された肺の医療画像を持っています。その直後、彼は別の病院でいつもお世話になっている肺の専門医を訪ねます。EHDSのおかげで、肺の専門医は他の病院で撮影された医療画像を見ることができ、不必要な検査を新たに行う必要がなくなりました。
8. EHDS は医療従事者にどのような影響を与えるのでしょうか?
医療従事者は国境を越えて、より簡単に電子ヘルスデータを利用できるようになります。この相互運用性の向上により、医療専門家は患者の病歴にアクセスできるようになり、治療や診断に関する意思決定のための根拠を強化できます。
関連するヘルスデータへの容易かつ迅速なアクセスにより、医療従事者はケアの継続性を向上させることができるようになります。
また、医療従事者は、さまざまなソースからヘルスデータに簡単にアクセスできるようになり、異なるシステム間で記録を手作業でコピーすることによる管理負担が軽減されます。これは、医療システムの効率性にも良い影響を与えます。医療従事者が研究に携わっている場合、研究やイノベーションを目的としたヘルスデータへのアクセスが容易になるというメリットを享受することができます。
9. EHDS はどのようにデータプライバシーとセキュリティを保護するのですか?
EHDSは、一般データ保護規則(GDPR)、データガバナンス法(案)、データ法(案)、NIS指令の上に構築されています。EHDSはこれらのイニシアチブを補完し、必要な場合には医療セクターのための、よりテーラーメードのルールを提供します。
信頼はEHDSの重要な要素です。この提案では、電子医療記録システムの相互運用性とセキュリティのためのセキュリティ基準を導入し、メーカーにその認証を要求しています。EHDSはまた、診断や治療、研究、統計、または公共の利益のためのヘルスデータの利用を支持するEU法の実効性を高めるGDPRによってもたらされる可能性に基づいています。
さらに、データの二次利用のための電子ヘルスデータの処理は、データアクセス機関が発行する許可証に基づき、規則で想定されている特定の目的に限り可能となっています。個人にとって不利な決定を下すため、あるいは医療従事者や患者に向けて健康製品を売り込むためにデータを使用することは禁止されます。
データ処理は、プライバシーと(サイバー)セキュリティの非常に高い基準に準拠が求められる安全な処理環境においてのみ行うことができ、そのような環境から個人データをダウンロードすることはできません。また、研究者、企業、公共機関は、個人を特定できないデータ(個人の身元を特定することなく、病気、症状、薬に関する情報を提供すること)のみにアクセスすることができます。ユーザーはデータ対象者を再識別することは禁じられています。ヘルスデータの機密性を考えると、厳格な措置が最も重要です。
10. 加盟国はどの程度 EHDS の準備が整っているのですか?
デジタルヘルスに関して、加盟国の成熟度は様々です。
ヘルスデータの一次利用:医療サービス提供のためのヘルスデータの利用に関しては、様々な研究で示されているように、いくつかの加盟国は、その国内において高いレベルのデジタル化と相互運用性を達成していますが、他の加盟国は、必要なステップを踏んでいる最中です。患者サマリーや電子処方箋サービスは全加盟国の3分の2に存在し、オンラインポータルを介したアクセスが最も頻繁に行われていますが、国境を越えて送受信できる国はごくわずかで、11カ国はいまだに処方箋に紙のプリントアウトを使用しているのが現状です。現在、MyHealth@EUを介した患者サマリーやe処方箋の共有に対応しているのは10カ国のみです。しかし、2025年までに全加盟国がMyHealth@EUに参加する計画があります。
研究、イノベーション、政策決定、規制目的のためのヘルスデータの二次利用に関して:規制上の決定の根拠となる研究は、現在多くの場合、少数のEU加盟国に集中した小さなデータベースで行われており、その地理的・人口統計的サンプルサイズは限定されています。このような断片化と同意への過度の依存を克服するために、いくつかの加盟国は国内法を整備し始めました。例えば、13 の加盟国がデータへのアクセスを提供するために、より集中化した国のシステムを整備し始めましたが、EU レベルではそれらの間に共有性はなく、システムは断片的なままで、多くの共通点があるにもかかわらず、業務間には差異があります。加盟国の中には Findata、French Data Hub、German Forschungsdatenzentren などの ヘルスデータアクセス機関 を設立している国もあります。
EHDSは、この提案が全加盟国のデジタルヘルスを進め、EUの医療システムをデジタルな未来に対応させたいという意味で野心的です。
11. EHDSは、ヘルスデータを産業界と共有するのでしょうか?
疾病の予防、診断、治療を改善するイノベーションを可能にするために、産業界がヘルスデータを利用できることが重要です。COVID-19のパンデミックでは、何百万人もの命を救うのに役立つワクチンを開発するために、このようなイノベーションが重要であることを改めて示しました。
そのため、産業界は、データへのアクセス許可を得た後に、ヘルスデータアクセス機関を利用する機会を持つことになります。特定の研究に必要なデータのみが、個人の身元を明かすことなく自由に利用でき、プロジェクトの期間中、安全な処理環境でのみアクセスすることができます。
ヘルスケアに関しては、EHDSは医療専門家が患者のデータにアクセスすることのみをサポートします。産業界はそのようなデータにアクセスすることはできません。
以上、Q&Aを見てきました。
さまざまなステークホルダーからの視点からQ&Aが作成されており、「法案を読むほどでは・・・」という方にとって、非常に分かりやすい資料になっていると思います。
なお、EHDSの概要や二次利用に関する記事は以下をご参照ください。




